この記事が含む Q&A
- DLDを持つ子どもにADHDが併存する場合、微細運動・社会性・行動面の困難が特に目立つことが多いですが、ADHDを予測する主要な要因は何ですか?
- 微細運動の難しさ・社会性の困難・行動面の困りごとがADHDを強く予測します。
- 睡眠の乱れや胃腸トラブルはADHDを予測する決定的な要因になりますか?
- いいえ、それらはADHDを予測する決定的な要因にはなりません。
- DLDの支援で大切なポイントは何ですか?
- 言語だけでなく微細運動・感覚・睡眠・生活環境を一貫して整える多方面の支援が重要です。
幼児期に「ことばの遅れ」で相談に来るご家庭は少なくありません。
とくに2〜5歳ごろは、話す量にも個人差が大きく、周りから「そのうち伸びるよ」と言われたり、保護者の方の中でも「本当に心配していいのだろうか」と迷うことが続きます。
しかし、ことばの遅れの背景には、言語そのものだけでなく、注意、運動、感覚、睡眠、社会性など、さまざまな発達の要素が影響していることが知られてきました。
今回紹介する研究では、その中でもとくに重要なテーマである「発達性言語障害(DLD)」と「ADHD(注意欠如・多動症)」の関係が、幼児期の段階でどのように現れているのかが、約200名近い子どもたちを対象に詳しく調べられています。
研究を行ったのは、トルコの大学病院・研究病院です。対象になったのは、生後24〜60か月の子どもたち。全員が「発達性言語障害(DLD)」(以前は「特異的言語発達障害(SLI)」とも呼ばれていた、ことばの理解や表現に生まれつきのむずかしさがある状態)の診断を受けた子どもで、その中でも DLDだけの子ども(111名) と DLDとADHDの両方がある子ども(70名) に分け、それぞれの発達・行動・感覚の特徴や、どんな要因がADHDを予測できるのかが調べられました。
この研究の大きな特徴は、ことばだけでなく、睡眠、運動、感覚、社会性、行動、さらには胃腸症状まで、幼児の発達を多面的に調べていることです。
そのため、保護者の方や支援者が「なぜこの子はことば以外でもつまずくのだろう?」と感じてきた部分に、とても丁寧な説明を与えてくれる内容になっています。
まず、研究に参加した子どもたちの背景を見てみると、年齢や性別、家庭環境、親の教育歴など、基本的な項目では「DLDのみの子ども」と「DLD+ADHDの子ども」で差はありませんでした。
つまり、家庭の状況や妊娠中・出産時の大きなトラブルといった「わかりやすい要因」では、2つのグループを区別できなかったのです。

しかし、日常生活に関わるいくつかの項目では、はっきりとした違いがありました。
もっとも目立ったのは 睡眠の問題 です。
DLDとADHDをあわせもつ子どもたちは、
- 寝つきが悪い
- ベッドに入っても抵抗が強い
- 夜中に起きることが多い
- 睡眠時間が短い
という傾向が明確に高くなっていました。
幼児期の睡眠は、脳の発達にも気分にも深く関わるため、睡眠の乱れが行動や注意のむずかしさと影響しあっている可能性が考えられます。
保護者の方が「寝る前にとても興奮しやすい」「寝かしつけが毎日大変」と感じるとき、それは単なる“生活リズムの問題”ではなく、発達的な特徴とつながっているかもしれません。
もう一つ興味深いのは 胃腸のトラブル です。
DLDとADHDの両方がある子どもたちは、
- 下痢が多い
- 便秘が多い
という報告が、それぞれDLDのみの子どもより明確に多い結果となりました。
胃腸の調子と行動・注意の特性の関係は、近年さまざまな研究で注目されていますが、幼児期からすでに差が生じている点は重要です。

次に、研究の中心となる「発達面の特徴」を見ていきます。
まず、大きな運動(走る・跳ぶ)や、社会性、理解する力(受容言語)などでは大きな差は見られませんでした。
しかし、「手先の動き(微細運動)」と「話す力(表出言語)」でははっきりとした差があり、DLD+ADHDの子どもたちはどちらも明確に低い成績となっていました。
手先の動きは、単に「器用さ」だけではなく、注意、計画性、視線の使い方、動きをコントロールする力など、多くの脳機能が同時に働きます。
幼児期の微細運動は、就学後の学習(字を書く、はさみを使う、形を写す)に強く関係することが知られており、ここに違いが見られたことは支援において非常に大きな示唆になります。
さらに研究は、行動や感覚の特徴も細かく調べています。
ここでは、ほぼすべての項目で DLD+ADHDの子どもたちのほうが困りごとが多い という結果になりました。
たとえば、
- 落ち着きにくい
- 注意がそれやすい
- 衝動的な行動が多い
- 癇癪(かんしゃく)やいら立ちが強い
- こだわりや反復行動が見られる
- 人への反応ややりとりがむずかしい
- 感覚の刺激に敏感または鈍感
といった項目です。
なかでも大きな差が出たのは、
- 社会的なやりとりのむずかしさ(自閉症的特徴)
- 多動・不注意
- 癇癪・衝動性
- 感覚処理の困難(音・触覚・動きなどへの反応)
でした。
保護者の方が日常で「どうしてこんなに動きつづけるのだろう」「音にすぐびくっとする」「急に強い癇癪が出る」「人と遊ぶのが苦手」と感じる場面が多いとき、DLDにADHDが重なっている可能性は十分に考えられます。

さらに、この研究では どの特徴がADHDを予測するのか とても丁寧に分析されています。
結果として、ADHDを強く予測していたのは、次の3つでした。
- 手先の動きのむずかしさ(微細運動の弱さ)
- 社会的なやりとりのむずかしさ(自閉症的特徴の強さ)
- 行動上の困りごとの強さ(特に多動・衝動・癇癪など)
逆に、睡眠の乱れや胃腸トラブル、ことばの遅れそのもの(表出言語の低さ)は、「ADHDを予測する決定的な要因」にはなりませんでした。
つまり、同じDLDでも、「手先の動き」「社会性」「行動面」の3つに大きなチャレンジがある場合、ADHDが併存している可能性がかなり高まるということです。
この結果は、単にADHDを見つけるという意味だけでなく、幼児期の段階でどの部分に重点を置いて支援したらよいかを明確にしてくれます。
研究チームは、「DLDはことばだけの障害ではなく、多面的な発達支援が必要な状態である」と強調しています。
言語に関する治療・訓練を行うだけでなく、
- 微細運動を育てる遊びや活動
- 感覚への配慮
- 行動面のサポートや構造化された環境づくり
- 睡眠の安定化
- 胃腸のトラブルへの対応
- 家庭・園での一貫した関わり方
といった、多方面からの支援が重要になる、ということです。
また、この研究はADHDだけでなく、DLDの子どもに広く見られる「共通する課題」にも光を当てています。
DLDの子どもたちは、言語の遅れだけではなく、感覚処理のむずかしさや運動のつまずき、行動のコントロールのむずかしさなど、さまざまな領域が影響しあっています。
これらは別々の問題ではなく、脳のネットワークが複雑に関係しあって生じているものだという視点が重要です。
研究の最後では、「DLDの子どもを見るときは、言語だけを見るのではなく、発達を大きく、立体的に捉えることが必要」と述べられています。
これは自閉症やADHDの支援にも通じる非常に重要な視点であり、幼児期の段階で取り組めることがたくさんあることを示しています。
今回の研究は横断的(1回きりの評価)ですが、大規模で多面的な調査であることに強みがあります。
一方で、今後は子どもたちの成長を追跡する研究が必要であり、特に微細運動や社会性の支援がどのようにその後の発達に影響するのかが注目されています。

ことばの遅れは、保護者の方にとってとても心配なテーマですが、この研究は「ことばだけに注目しすぎないこと」「子どもの全体の発達を見ること」が、長い目で見て子どもの力を伸ばす鍵になることを教えてくれます。
そして、もしお子さんが微細運動・社会性・行動面に大きなチャレンジを抱えている場合、それは叱るべき“問題”ではなく、サポートが必要な“サイン”であることを、慎重に伝えてくれる内容だと言えます。
DLDとADHDの両方がある子どもたちは、日常の中でより多くの負担を感じやすい特徴があります。
しかし、幼児期は支援の効果がもっとも出やすい時期です。微細運動を育てる遊び、感覚に配慮した環境、ことばを理解しやすい提示方法、睡眠の安定化、園や家庭の一貫した関わり、そして保護者の方自身が孤立しないこと。
こうした日常の積み重ねが、発達の土台をしっかりと支える大きな力になります。
研究のメッセージをひとことでまとめるなら、こう言えると思います。
「DLDの子どもたちは、ことばだけではなく、心と体の“見えにくい助け”を必要としている。
そして、それを早く見つけて支えることで、発達の未来は大きく変わっていく」
幼児期は、発達を支えるための働きかけがもっとも届きやすい時期です。
微細運動を育てる遊び、感覚への配慮、ことばの理解を助ける関わり、睡眠の安定化、生活の見通しを立てやすい環境づくりなど、日常のささやかな工夫が積み重なることで、子どもが安心して力を発揮できる土台が整っていきます。
(出典:BMC Psychiatry DOI: 10.1186/s12888-025-07638-x)(画像:たーとるうぃず)
適切な支援につなげるための、子どもがかかえている困難について、より適切な把握につながる研究ですね。
(チャーリー)





























