この記事が含む Q&A
- ADHDの生きづらさは動きの調子「バイタリティ・フォーム」も関係すると理解できますか?
- はい、動きの速さ・力の入れ方・リズムなどの特徴が関係し、関係性のズレを生むことがあります。
- なぜ薬や行動療法で注意や衝動が改善しても人間関係の難しさが残ることがあるのですか?
- 動きの調子や伝わり方のずれは薬だけでは解消されず、社会的な受け取り方にも影響するからです。
- 支援の具体的な方法は何ですか?
- 構造化した運動練習や衝動を止める練習、相手の動きを観察して真似る経験などで動きの調子を整えることが役立ちます。
ADHDのある人が人づきあいの中で感じる生きづらさは、「注意が続かない」「落ち着きがない」「衝動的に動いてしまう」といった言葉だけでは、十分に説明できないことがあります。
本人は相手を大切に思っていても、その思いがうまく伝わらず、誤解されたり、距離を置かれたりしてしまう。
そうした経験を重ねるうちに、人との関わりそのものが苦しくなっていくこともあります。
中国の浙江大学医学院附属邵逸夫医院精神科、浙江大学言語・認知研究センター、紹興学院心理学部、同済大学心理学部の研究者たちは、こうした社会的な困難を、これまでとは異なる角度から捉えています。
注目されているのは、人の動きや振る舞いがもつ「調子」や「勢い」です。
人は日常生活の中で、相手が何を言ったかだけでなく、どんな速さで動いたのか、どのくらいの強さで身ぶりをしたのか、どんなリズムで話したのかといった情報を、無意識のうちに感じ取っています。
こうした動きの特徴は、感情や態度、意図を伝える重要な手がかりになっています。この動きのダイナミックな特徴は、バイタリティ・フォームと呼ばれています。

バイタリティ・フォームは、単なる感情表現とは異なります。
怒りや喜びといった感情は一時的なものですが、バイタリティ・フォームは、行動が展開していく全体の過程に常に含まれています。
動作の速さ、力加減、間の取り方、空間の使い方といった要素が組み合わさり、その人らしい行動の調子を形づくります。
ADHDのある人では、このバイタリティ・フォームの調整が難しくなることがあります。
たとえば、親しみを示すつもりで動いた行為が、勢いが強すぎるために相手には攻撃的に感じられてしまうことがあります。
逆に、関心や好意があるにもかかわらず、動きが弱くぎこちないために、冷たく見えてしまうこともあります。
こうしたずれは、行動の「内容」が間違っているから起こるわけではありません。
「どう動いたか」「どんな調子で表現されたか」という部分が、社会的な文脈と合わなくなっているのです。
そのため、本人の意図とは無関係に、否定的な反応が返ってくることがあります。
従来、ADHDの社会的な困難は、実行機能や抑制機能の問題、あるいは心の理論の弱さといった枠組みで説明されてきました。
しかし、同じ診断名であっても行動の現れ方には大きな幅があります。
細かくそわそわ動く人もいれば、大きな動きで周囲と衝突しやすい人もいます。
こうした違いは、症状の頻度や有無だけでは捉えにくいものです。
薬物療法や行動療法によって、注意力や衝動性が改善しても、人間関係の難しさが残ることがあります。
表面的な行動は抑えられても、動きのリズムや力加減が社会的な期待とずれたままであれば、周囲との違和感は続いてしまいます。

バイタリティ・フォームの特徴は、いくつかの側面から整理されています。
まず安定性です。
安定性とは、動きや感情表現に一貫性があり、相手から予測しやすい状態を指します。
ADHDのある人では、反応が断片的になりやすく、相手にとって意図が読み取りにくい印象を与えることがあります。
一方で、こうした不安定さは、柔軟な思考や素早い切り替えといった特性とも結びついています。
状況の変化に応じて発想を切り替えたり、型にはまらない解決策を生み出したりする場面では、強みとして働くこともあります。
次に強度があります。
動きの速さや力の入れ方、感情の高まり方といった強度の調整が難しいと、社会的な場面で不釣り合いな反応が生じます。
好意を示すつもりのジェスチャーが強すぎたり、喜びの表現が過度になったりすると、周囲は戸惑ってしまいます。
協調性も重要な要素です。
協調性とは、相手や状況に合わせて動きやリズムを調整する力のことです。
会話のテンポが合わなかったり、場の雰囲気とずれた動きになったりすると、やりとりが噛み合わなくなります。
感情の方向づけ、つまりポジティブかネガティブかという偏りも関係します。
不安定で強度の高い動きは、否定的に受け取られやすく、それが拒否体験につながることがあります。
こうした経験が積み重なることで、人との関わりに対する不安が強まっていきます。

これらの特徴の背景には、脳の中の特定の回路の働きが関係しています。
背側中心島皮質と中帯状皮質を中心とする回路は、動きの調子や感情の勢いを統合し、相手の動きを感じ取り、自分の行動に反映させる役割を担っています。
ADHDでは、この回路の連携がうまくいかず、ドーパミン系の調整の問題や運動制御の難しさが重なって、動きの調整が難しくなります。
その結果、相手の動きを誤って読み取ったり、自分の動きが意図とは違う形で伝わったりします。
強すぎる動きが防衛的な反応を引き起こし、その反応を敵意として受け取ってしまう。
こうした行き違いが繰り返されることで、関係性はさらに難しくなっていきます。
一方で、動きの調子は固定されたものではありません。
年齢や経験とともに変化し、意識的な働きかけによって調整される可能性があります。
構造化された運動練習や、衝動を一瞬止める練習、相手の動きを観察して真似る経験などは、動きの調子を整える助けになります。
行動を抑え込むことだけが支援ではありません。
どんな調子で動いているのか、どう伝わっているのかに目を向けることで、これまで見えにくかった困難と同時に、新しい可能性も浮かび上がってきます。
ADHDの社会的な生きづらさは、努力不足ではなく、動きと伝わり方のズレから生じている。
その理解が、関わり方を変える一歩になるのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2025.1611535)(画像:たーとるうぃず)
これは新しい視点です。
たしかに、「動き」「振る舞い」は他者との関係に大きく影響するはずです。
支援方法を考える上でとても重要であることに間違いありません。
(チャーリー)





























