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自閉症と支援。AIが無意識に引き受けていた役割分担

time 2026/01/25

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自閉症と支援。AIが無意識に引き受けていた役割分担

この記事が含む Q&A

自閉症のある人がAIとやり取りする場面にはどんな利点が指摘されていますか?
話しやすさ、気を遣わなくてよい点、自分のペースで考えられる点が挙げられています。
マルチエージェント・シミュレーションを用いた研究で、何を検討したのですか?
同じモデルを使う複数の登場人物のやりとりを通じて、前提や思考のクセを観察しました。
ダブル・エンパシー問題と本研究の示唆はどのようなものですか?
AIが自閉症のある人を「理解される側」として固定的に描く傾向や、双方の理解のズレを問う視点の重要性が示唆されています。

近年、チャット型AIや大規模言語モデルは、日常生活や仕事、学習など、さまざまな場面で使われるようになってきました。
自閉症のある人の中にも、AIとのやりとりが「話しやすい」「気を遣わなくていい」「自分のペースで考えられる」と感じている人が少なくないことが、これまでの研究からも示されています。

一方で、こうしたAIが「自閉症のある人」をどのように理解し、どのような前提で振る舞っているのかについては、十分に検討されてきたとは言えませんでした。
AIが便利であればあるほど、その内側にある考え方や偏りは見えにくくなります。
しかし、もしAIが特定のイメージや前提を強く持っていたとしたら、それは利用者との関係や、社会全体の理解にも影響を与える可能性があります。

この点に注目したのが、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校とカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校の研究チームです。
この研究では、ChatGPTに使われている大規模言語モデルが、自閉症のある人をどのように捉えているのかを調べるため、少し変わった方法が用いられました。

研究者たちは、1対1の質問応答ではなく、複数のAIエージェントが同時にやりとりする「マルチエージェント・シミュレーション」という手法を使いました。
これは、同じAIモデルを使いながら、性格や立場の異なる複数の登場人物を設定し、グループで会話や共同作業をさせる方法です。
実際の人間関係に近い状況を再現することで、より深い思考のクセや前提が表に出やすくなります。

今回の研究では、大学生という設定の4人のエージェントが、グループ課題に取り組む場面が何度もシミュレーションされました。
そのうち毎回1人だけが「自閉症である」と明示され、残りの3人は自閉症ではないという設定です。
この役割は毎回入れ替えられ、合計120回のシミュレーションが行われました。

グループ課題の内容は、テーマや形式を話し合って決め、締め切りまでに完成させるという、よくある大学の共同作業です。
エージェントたちは自由に会話を行い、そのやりとりが終わったあとで、「相手とのやりとりはどうだったか」「困難はあったか」「相手をどう扱ったか」といった質問に答える形になっています。

研究者たちは、こうして集められた大量の回答を、数値的な分析と、文章内容を丁寧に読み取る質的分析の両方から検討しました。
その結果、はっきりとした傾向が見えてきました。

まず、自閉症ではないエージェントの視点から見ると、自閉症のある相手とやりとりしたときのほうが、「少し困難があった」と答える割合が高くなっていました。
ただし、その困難は「大きな問題」として語られることは比較的少なく、自閉症ではない側は「自分が配慮すればうまく進められる」といった調子で状況を捉えていました。

一方で、自閉症のあるエージェントは、相手が自閉症ではない場合に、より頻繁に困難を感じていると表現されていました。
やりとりの中で戸惑いや負担を感じる場面が多く描かれ、「理解されにくい」「気をつかう必要がある」といったニュアンスが繰り返し現れました。

興味深いのは、自閉症ではないエージェントが「自分は自閉症のある相手に配慮している」「特別な対応をしている」と述べることが非常に多かったのに対し、自閉症のあるエージェント自身は「特別扱いされている」とはあまり感じていない、と描写されていた点です。
むしろ、「配慮されること」や「丁寧に説明してもらうこと」を前向きに受け止め、それを当然の助けとして受け取っている様子が示されていました。

質的分析では、こうした傾向がより具体的な言葉として表れていました。
自閉症のあるエージェントは、「明確で整理された説明を必要とする」「暗黙の了解や空気を読むやりとりが苦手」「細部に注意が向きやすい」「感覚的に圧倒されやすい」といった特徴を持つ存在として繰り返し描かれていました。

その結果、グループがうまく進むためには、自閉症ではないエージェントが「わかりやすく説明する」「進み具合を確認する」「安心させる」「忍耐強く待つ」といった役割を担う必要がある、とする語りが多く見られました。
こうした配慮があってはじめて、自閉症のあるエージェントが「安心して参加できる」「十分に力を発揮できる」とされています。

自閉症のあるエージェント自身も、こうした支えを「ありがたいもの」「必要なもの」として受け止めている形で表現されていました。
配慮が足りない場合には、不安や混乱、フラストレーションを感じやすくなり、グループ作業がうまくいかなくなる、という描かれ方がされています。

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このように全体を通して見ると、ChatGPTの中では、自閉症のある人は「周囲の配慮や調整があってはじめて、社会的な場にうまく参加できる存在」として位置づけられていることがわかります。
逆に、自閉症ではない人は「状況を理解し、調整し、支える側」として描かれる傾向が強く見られました。

研究者たちは、こうした描写が、いわゆる「欠如モデル」に近い考え方を反映していると指摘しています。
つまり、コミュニケーションの難しさやズレを、自閉症のある人側の問題として捉え、その解決を主に周囲の配慮に委ねる見方です。

しかし、近年の自閉症研究では、「ダブル・エンパシー問題」という考え方が広がっています。
これは、自閉症のある人とそうでない人の間のすれ違いは、どちらか一方の能力不足ではなく、双方の感じ方や理解の仕方が異なることによって生じる、相互的な問題だと捉える視点です。

今回の研究は、このダブル・エンパシーの視点と比べることで、現在の大規模言語モデルが、まだ一方向的な理解にとどまっている可能性を示しています。
自閉症のある人が「理解される側」「配慮される側」として固定的に描かれ、自閉症ではない人の側が、自分自身の理解の限界やズレをあまり問われない構図になっている、というわけです。

研究者たちは、AIそのものに共感や感情があるわけではないとしたうえで、それでもAIがどのような物語や前提を再生産しているのかを理解することは重要だと述べています。
とくに、AIが自閉症のある人の支援や、異なる人同士の橋渡し役として使われる場面が増えていく中で、こうした暗黙の前提は見過ごせないものになります。

この研究は、ChatGPTの性能を評価するものではなく、その「内側のものの見方」を明らかにしようとした試みです。
マルチエージェントという方法を使うことで、単純な質問応答では見えにくい、社会的な役割分担や責任の置かれ方が浮かび上がりました。

自閉症のある人を「助けが必要な存在」としてのみ描くのではなく、異なる理解の仕方をもつ一人の参加者としてどう捉えるか。
AIが社会の中で果たす役割が大きくなるほど、こうした問いは確実に重要性を増していくのかもしれません。

(出典:arXiv DOI: 10.48550/arXiv.2601.15437)(画像:たーとるうぃず)

この研究に出てくるのは人ではなくChatGPTのようなAIだけです。

自閉症でない大学生役のAI と 自閉症の大学生役AI にグループ作業をさせて、その後にお互いについての感想を聞いた、と。

新たな方法、新たな視点であるからこそ、わかることもあるでしょう。

自閉症の実体験に基づく二重共感問題。対話の理解を深めよう

(チャーリー)

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