この記事が含む Q&A
- 自閉症のうち知的機能が遅れないグループの自殺リスクは他のグループとどう違いますか?
- 自殺念慮・自殺行動の経験が高く、知的機能に課題のない自閉症は知的機能障害のある群とほぼ同水準のリスクに見える一方、評価には限界がある。
- 知的機能に課題がある子どもでは自殺念慮は低いとされますか?
- そうした傾向が示される一方で、内面の言語化困難や質問の理解難、周囲の気づき難さなど評価の限界があるため結論には慎重さが必要である。
- なぜ生活機能が保たれていても自殺リスクが高く見えるのですか?
- 社会的カモフラージュなど長期的な心理的負担が蓄積し、家庭環境や併存する症状も影響する複合要因が関係している。
自閉症や知的障害のある思春期の子どもたちは、精神的に追い詰められたとき、どのようなかたちで危機を迎えるのでしょうか。
そしてその中で、「自殺リスク」はどのように現れるのでしょうか。
思春期は、ただでさえ感情の波が大きくなりやすい時期です。
そこに神経発達症の特性が重なると、危機のかたちはより複雑になります。
しかし実際の精神科救急の現場で、診断の違いによってどのような差が出るのかは、これまで十分に検討されてきませんでした。
今回紹介する研究は、精神科救急に入院した思春期の子どもたちを対象に、診断ごとの自殺念慮や自殺行動の違いを比較したものです。
対象は11歳から17歳までの206人。いずれも精神科救急に入院するほど状態が悪化していた子どもたちです。
研究では、最初の入院時のデータが分析に用いられました。
子どもたちは、次の4つのグループに分けられました。
・自閉症
└ 知的な遅れのない自閉症
└ 知的機能の境界域または知的障害を伴う自閉症
・知的機能の境界域または知的障害のみ
・どちらもない子どもたち
調べられたのは、全体的な生活機能、精神科診断、虐待などの逆境体験、感情の不安定さ、そして自殺念慮や自殺行動の有無です。

この研究は、イタリアのIRCCSステラマリス財団の発達神経科学部門で実施されました。
思春期の神経発達症と精神科救急を専門とする医療機関で、2022年から2023年までの2年間に入院した連続症例をもとにしています。
まず注目されたのは、知的な遅れのない自閉症の子どもたちの自殺リスクです。
このグループでは、
・自殺を考えた経験
・実際に自殺行動を起こした経験
の割合が高く、神経発達症のない子どもたちとほぼ同じ水準でした。
一方で、
・知的障害のみの子どもたち
・知的障害を伴う自閉症の子どもたち
では、自殺念慮や自殺行動の割合は有意に低く出ました。
しかし研究者たちは、この結果をそのまま「リスクが低い」とは解釈していません。
知的機能に課題がある子どもは、
・内面の体験を言葉にしにくい
・抽象的な質問を理解しづらい
・周囲が苦しさに気づきにくい
といった理由から、自殺念慮が十分に把握されていない可能性があるからです。
評価は発達水準に合わせて行われ、保護者からの情報も用いられましたが、それでも限界があると論文では指摘されています。
生活機能にも違いがありました。
もっとも機能が低かったのは、知的障害を伴う自閉症の子どもたちでした。
一方で、知的な遅れのない自閉症の子どもたちは、神経発達症のない子どもたちとほぼ同じ機能レベルでした。
ここに、重要な逆説があります。
生活機能は保たれている。
学校にも通えている。
知的にも問題がない。
それでも、自殺リスクは高い。

研究では、この背景として「社会的カモフラージュ」という概念が議論されています。
社会的カモフラージュとは、自閉症の特性を隠し、周囲に合わせようとする行動のことです。
とくに知的機能の高い自閉症の人では、
・本来の自分を抑えて振る舞う
・場の空気を読み続ける
・疲れても合わせ続ける
といった努力が見られることがあります。
短期的には適応しているように見えますが、長期的には心理的負担が蓄積し、感情の不安定さや抑うつ、さらには自殺念慮と関連する可能性があると指摘されています。

家庭環境にも特徴がありました。
知的障害のある子どもたちのグループでは、身体的・情緒的ネグレクトの割合が高いことが示されました。
これは必ずしも悪意によるものとは限りません。
知的障害のある子どもを育てる家庭では、
・慢性的なストレス
・経済的負担
・社会的孤立
が生じやすいことが、他の研究でも報告されています。
十分な医療や社会的支援がある場合には、親のストレスが軽減されることも知られています。
つまり、子どもの特性だけでなく、家族全体を支える視点が重要です。
さらに、この研究では双極スペクトラム障害の併存率が非常に高いことも報告されています。
とくに知的な遅れのない自閉症の子どもたちでは、その割合が高く、気分の不安定さとの関連が示唆されています。
ただしこれは、研究施設が重症例を多く受け入れる専門機関であることも影響していると考えられています。

この研究が示しているのは、単純な「診断=リスク」ではありません。
知的機能が高く、社会に適応しているように見える子どもでも、内面では強い苦しさを抱えていることがあります。
一方で、知的機能に課題のある子どもでは、苦しみが「見えにくい」かたちで存在している可能性があります。
だからこそ、
・発達特性
・認知の特徴
・感情調整の難しさ
・家庭環境
・併存する精神症状
を総合的に見ていく必要があります。
研究者たちは、発達特性に配慮した自殺リスク評価と、家族を含めた包括的な支援の重要性を強調しています。
思春期の危機は、単なる気分の波ではありません。
その背後には、特性と環境が重なり合った複雑な構造があります。
この研究は、精神科救急という最も切迫した場面から、その違いを静かに示しています。
「どの診断か」ではなく、
「どのようなかたちで追い詰められているのか」。
そこに目を向けることが、本当の支援の出発点なのかもしれません。
(出典:Brain Sciences)(画像:たーとるうぃず)
「見えない」ことを前提に、思いを巡らし、注意していただきたいと思います。
(チャーリー)




























