この記事が含む Q&A
- ユーモアは感情を調整する手段として自閉症の人にも有効ですか?
- 適切な形で活用すれば感情を整え、ストレス対処に役立つ可能性があると示されています。
- 自閉症の人がユーモアを使う際の特徴は何ですか?
- ユーモアの頻度が低い傾向や社会的場面での笑いの共有の難しさ、言葉だけのジョークは難しい場合があると報告されています。
- ユーモアを支援に活かすにはどうすれば良いですか?
- その人に合った形で使えるようにすることが重要で、介入として1日に3つの面白かったことを書くなどの取り組みが効果を示すことがあります。
私たちは、つらい出来事に直面したとき、思わず笑ってしまうことがあります。
それは単なる気晴らしではなく、心を守るための大切な働きかもしれません。
今回紹介する研究は、「ユーモア」が感情を調整する手段としてどのように働くのか、そしてそれが自閉症のある人にとってどのような意味を持つのかを整理したレビュー論文です。
研究は、スイスのチューリッヒ大学やジュネーブ大学などの研究チームによってまとめられました。
ユーモアは、私たちの日常にあふれています。
誰かと笑い合うこと、ちょっとした冗談に気づくこと、予想外の出来事を面白いと感じること。
こうした経験は、心理的な健康と深く関係していると考えられています。
実際に、ユーモアの感覚が高い人ほど、不安やストレス、孤独感が少なく、より良い心理状態を保ちやすいことが多くの研究で示されています。
また、ユーモアは単に気分を明るくするだけでなく、「感情を調整する力」としても働きます。

感情の調整とは、「どんな感情を、いつ、どのように感じるかを変える働き」のことです。
たとえば、嫌な出来事を別の視点から見直して気持ちを軽くすることや、気をそらしてストレスを和らげることが含まれます。
ユーモアは、この調整の中でいくつかの役割を果たします。
一つは、「見方を変える」ことです。
つらい状況でも、少し距離をとって見ることで、怖さや苦しさをやわらげることができます。
ユーモアは、この視点の切り替えを自然に起こします。
もう一つは、「注意をそらす」ことです。
面白いことに意識を向けることで、嫌な感情から一時的に離れることができます。
さらに、ユーモアはポジティブな感情を生み出します。
笑いや楽しさは、身体的にもストレス反応をやわらげる働きがあるとされています。
実験研究では、つらい画像を見た後に、それを「ユーモラスに捉え直す」ことで、ネガティブな感情がより強く減少し、ポジティブな感情が増えることが示されています。
この効果は一時的なものだけでなく、後になっても持続する場合があることも報告されています。
また、ユーモアには種類があります。
人を傷つけない温かいユーモアと、皮肉や攻撃的なユーモアでは、感情への影響が異なります。
研究では、前者のようなポジティブなユーモアの方が、ネガティブな感情を減らし、ポジティブな感情を増やす効果が高いことが示されています。
このように、ユーモアは感情を整える有効な手段として広く知られています。

しかし、自閉症のある人にとっては、この「感情の調整」がしばしば難しいものになります。
自閉症のある人は、不安や抑うつの傾向が高いことが知られており、その背景には感情の調整の難しさがあると考えられています。
感情を認識すること、適切な方法を選ぶこと、それを実行すること、そして結果を見て調整すること。この一連の流れの中で、さまざまな困難が生じることがあります。
たとえば、自分の感情をうまく言葉にできないことがあります。
また、感情を変えるための方法として、「考え方を変える」ような複雑な戦略よりも、「避ける」「繰り返し行動をする」といった行動的な方法に頼る傾向も見られます。
このような背景の中で、ユーモアの使い方にも違いが見られます。
研究によると、自閉症のある人は、ユーモアを使う頻度が全体的に少ない傾向があります。
また、感じる「面白さ」もやや少なく、特に社会的な場面での笑いの共有に難しさがあることが報告されています。
ただし、これは「ユーモアが使えない」という意味ではありません。
実際には、自閉症のある人でもユーモアを理解し、使うことができます。
ただし、その使い方や得意な形が異なるのです。
たとえば、視覚と音声が組み合わさったようなユーモアは比較的理解しやすい一方で、言葉だけのジョークや抽象的なユーモアは難しい場合があります。
また、ユーモアを使って感情を調整することもありますが、その頻度は少なく、別の方法が多く使われる傾向があります。
興味深いことに、ユーモアを使うことができる人ほど、不安が低いという結果も報告されています。
つまり、ユーモアは自閉症のある人にとっても、うまく使えれば有益な資源になる可能性があります。

一方で、自閉症のある人に特徴的な要素として、「笑われることへの強い不安」があります。
これは「ゲロトフォビア」と呼ばれるもので、他人の笑いを自分への嘲笑と感じてしまう傾向です。
研究では、自閉症のある人の約半数がこの傾向を持つとされています。
このような経験があると、ユーモアは楽しいものではなく、むしろ不安や緊張を引き起こすものになります。
そのため、ユーモアの効果は個人によって大きく異なります。
さらに、ユーモアは「性格の強み」としても研究されています。
一般的には、ユーモアは幸福感や人間関係の良さと関連しています。
しかし、自閉症のある人では、この強みとしてのユーモアの位置づけが低いことが報告されています。
代わりに、学習への興味や誠実さといった別の強みがより強く現れることがあります。
それでも、本人や家族はユーモアをポジティブな特性として感じている場合も多く、支援の中で十分に活用されていない可能性が指摘されています。

では、ユーモアは支援に活かすことができるのでしょうか。
研究では、ユーモアを取り入れた介入の試みも行われています。
たとえば、「1日に3つの面白かったことを書く」というシンプルな取り組みでは、抑うつの軽減が見られました。
また、ユーモアを理解するトレーニングによって、特定の種類のユーモアの理解や、他者と共有する力が向上することも報告されています。
ただし、これらの効果は限定的であり、すべての人に同じように当てはまるわけではありません。
ここで重要なのは、「ユーモアを教えること」ではなく、「その人に合った形で使えるようにすること」です。
研究者たちは、神経多様性の視点から、自閉症のある人のユーモアを「不足」ではなく「違い」として捉えることの重要性を強調しています。
つまり、ユーモアのあり方は一つではなく、人によって異なるものです。
その違いを尊重しながら、本人にとって心地よく、役に立つ形で活かしていくことが求められます。
この研究全体から見えてくるのは、ユーモアは単なる娯楽ではなく、「選択的に使われる資源」であるということです。
自閉症のある人にとっても、ユーモアは万能な解決策ではありません。
しかし、適切な形で使われれば、感情を整え、人との関わりを支え、ストレスに対処するための一つの手段になり得ます。
そしてもう一つ大切な点があります。
それは、支援の方向性そのものです。
これまでの支援は、「できないことをできるようにする」ことに重点が置かれてきました。
しかしこの研究は、「どのような方法なら、その人の力を引き出せるのか」という視点を示しています。
ユーモアは、その一つの可能性です。
それは、誰にでも同じように当てはまるものではありませんが、その人にとって意味のある形で存在するかもしれません。
笑うことの意味もまた、人それぞれに違っているのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2026.1770298)
笑顔がたくさんに。
そうなることを心から願っています。
(チャーリー)




























