
この記事が含む Q&A
- アレキシサイミアは病気ですか?
- いいえ、病気ではなく感情を認識する難しさという性格的特徴で、DSM-5の診断名には含まれません。
- ASDの人はアレキシサイミアを持つ割合が高いのですか?
- はい、ASDの人は約50%がアレキシサイミアを持つと報告されています。
- 日常生活で感情への気づきを高めるには何をすれば良いですか?
- ジャーナリングや忍耐、家族・友人のサポート、セラピーなどを組み合わせると気づきを高めやすいです。
アレキシサイミアという言葉は、1972年に作られた心理学用語で、「感情の言葉がない」という意味があります。
日本語では「失感情症」と訳されることもありますが、これは精神疾患の診断名ではありません。
精神疾患の診断基準書であるDSM-5にも掲載されておらず、医師から診断されることはありません。
アレキシサイミアは、感情を認識し、特定し、それを言葉で表現することが難しい性格的な特徴(パーソナリティ特性)と考えられています。
ときには「感情の盲目」と呼ばれることもあります。
この特徴がある人は、自分が今どのような感情を持っているのかを認識することが難しくなります。
本人が自覚していない場合も多く、最初に気づくのは周囲の家族や友人であることが少なくありません。
たとえば「感情をあまり表に出さない」「自分の気持ちを話さない」といった印象を持たれることがあります。
一般人口のおよそ10%は、アレキシサイミアの特徴が日常生活に影響するほど強く現れています。
この割合は、自閉スペクトラム症(ASD)の人ではさらに高く、約50%がアレキシサイミアを持っています。
これは一般人口の10倍にあたります。
この特徴を持つ人は、自分では気づきにくいため、周囲の人が観察して初めて明らかになることもあります。
よく見られる行動や傾向には次のようなものがあります。
- 親しい人間関係を避ける
- 自分の身体感覚が何を意味しているのかわからない
- 他人の表情を読み取るのが難しい
- 感情的になると身体的な不快感を覚える
- 自分の気持ちを説明できない、言葉にできない
- 会話や注意を感情からそらす
- 共感する能力が限られている
- 他人の幸福や安否に関心を持たない傾向がある
- 抽象的な思考が苦手で具体的な思考に偏る
- 感情を身体感覚で説明する(例:「胸が重い」など)
アレキシサイミアがなぜ生じるのかは、まだはっきりわかっていません。
研究は限られており、明確な原因は解明されていませんが、いくつかの仮説があります。
一部の専門家は、この特徴が遺伝的な要素を持つと考えています。
これは、複数の遺伝性神経発達症で高い割合で見られるためです。
また、文化や環境の要因も、発症のリスクに影響を与える可能性があります。
アレキシサイミアには一次性と二次性の2つのタイプがあると考えられています。
一次性は発達に関連しており、子どもや若い頃から特徴が見られ、生涯にわたって安定して続きます。
一方、二次性は後天的に獲得されるもので、トラウマや強いストレスとなる出来事を経験したときの防衛反応として現れる場合があります。
また、脳損傷や脳に影響を与える神経疾患によっても生じます。
アレキシサイミアと自閉スペクトラム症の関連は強いです。
一部の研究者は、自閉スペクトラム症の人が感情を認識するのが難しいのは、自閉症そのものが原因ではなく、アレキシサイミアの影響によるのではないかと考えています。
両者は同時に存在することがあり、自閉症がアレキシサイミアを引き起こすわけではないとされています。
脳画像の研究では、他人の痛みに対する共感の欠如は自閉症ではなくアレキシサイミアによって予測されることが示されています。
また、アレキシサイミアと自閉症の両方を統計的に制御して分析すると、表情や感情を認識する困難は自閉症ではなくアレキシサイミアが予測因子となることが確認されています。
自閉スペクトラム症の人は、一般人口よりも10倍の割合でアレキシサイミアを持ち、およそ半数が該当します。
アレキシサイミアは、自閉スペクトラム症以外にも複数の状態と関連があります。
- うつ病:27〜50%の人に見られる
- 摂食障害:感情の特定や説明が難しいと報告されることが多い
- 神経疾患(例:アルツハイマー病)
- PTSD(心的外傷後ストレス障害):一般人口より強く見られる
- 統合失調症:2023年の研究で35%の人に見られた
- アルコール依存症:45〜67%が高いスコアを示す
- 違法薬物使用者:45〜50%が高いスコアを示す
- 外傷性脳損傷(TBI):通常、頭部への強い衝撃で発生し、30〜60%の人にアレキシサイミアが見られる
アレキシサイミアを持つ人は、感情の認識力を高めるための取り組みが可能です。
治療法や支援方法として次のようなものがあります。
- 弁証法的行動療法(DBT):感情調整や社会的スキルの習得を助け、他人の感情を認識する能力の向上が報告されている
- 内受容感覚トレーニング:空腹感など体内の感覚を認識する能力を高め、感情の認識を促進する可能性がある
- マインドフルネス:感情調整と関連があり、アレキシサイミアの改善に役立つ可能性があるが、さらなる研究が必要
- 認知行動療法(CBT):幅広い課題に対応可能だが、自閉スペクトラム症の人のアレキシサイミアにはDBTの方が有効な場合がある
アレキシサイミアは病気ではなく性格的な特徴であるため、多くの場合はうつ病やPTSDなど他の状態の治療と並行して支援が行われます。
外傷性脳損傷や認知症、精神病性障害、神経発達症を伴う場合、改善は難しいこともあります。
それでも、日常生活に支障がある場合は医療提供者に相談することが推奨されます。
日常生活での対処方法としては次のようなものがあります。
- ジャーナリング(感情を書き出す):特に虐待やトラウマが原因の場合に感情認識を促す。固定的なタイプでは効果が薄い場合もある
- 忍耐:自分の感情に向き合う過程では時間がかかるため、自分に対して理解と忍耐を持つ
- 家族や友人のサポート:感情や必要な支援を率直に伝えてもらうことで助けになる
- セラピー:専門家との面談で感情へのアクセスを支援する
アレキシサイミアは、感情を認識し、説明し、他人と共有する能力に影響を与える特徴です。
感情を身体的感覚で表現しやすく、感情的になると身体的に不快感を伴うこともあります。
その背景や特徴を理解することは、本人だけでなく周囲にとっても役立ちます。
外傷性脳損傷、認知症、PTSD、自閉スペクトラム症などと併存する場合も多く、支援方法を工夫することで生活の質を高められる可能性があります。
治療やトレーニング、マインドフルネスや内受容感覚の向上などを通して、少しずつでも感情への気づきを増やすことが、日常生活や人間関係の改善につながることが期待されます。
(出典:health DOI: 10.3389/fpsyg.2018.01614)(画像:たーとるうぃず)
感情がない、のではありません。
うまく自分の感情を捉えることができないのです。
正しく理解し、その困難を想像してみてください。
(チャーリー)