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自閉症の子どものかみつきや抵抗。行動の背景と親の体験

time 2025/08/19

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

自閉症の子どものかみつきや抵抗。行動の背景と親の体験

この記事が含む Q&A

自閉症の子どもがかみつきや叩くといった行動を、意図的な悪意として捉えるべきですか?
いいえ、それらは感覚のつらさや予定の急な変更、情報処理の負荷が重なる「強い困り感」の表れです。
保護者が孤立したり偏見を感じたりする場面を減らすには、周囲はどのように支援すべきですか?
周囲は事情を理解せず批判する視線を避け、子どもの安全確保を優先する保護者の判断を尊重し、学校や専門家と具体的な支援を共につくることが重要です。
この研究から、親子の暮らしを支える具体的な道は何だと示唆されていますか?
困り感のサインを「意味のある声」として受け止め、周囲の理解と協力を得て、同じ経験を持つ人とつながることが有効です。

自閉症のある子どもが、かみつきや叩くなどの「攻撃的」と受け取られやすい行動を示すことがあります。

これらは多くの場合、わざと人を傷つけようとするものではなく、感覚のつらさ、予定の急な変更、情報処理の負荷などが重なった「強い困り感」のサインだと考えられています。

今回の研究は、そうした行動に向き合っている保護者が、日々をどのように受け止め、どんなスティグマ(偏見・烙印)に直面しているのかを丁寧に聞き取ったものです。
研究は、豪ニューカッスル大学らによって行われました。

研究では、自閉症と診断された男子児童を育てる8名の保護者(実母・実父・継母など)が、半構造化インタビュー(会話のように進められる聞き取り調査)に参加しました。
聞き取りは30〜50分、2017〜2019年に実施され、「親としての実感」を言葉にしてもらい、その中に共通するものや違いを見つけて、経験の全体像を浮かび上がらせた研究です。

語られた体験の芯にあったのは「変わっていく期待」でした。
保護者が思い描いていた子育ての姿と、実際の毎日との間には大きなずれが生まれます。
そのずれは、ときに自分を責める気持ちや、周囲からの目線を怖れる気持ちとなって現れ、家族を家の中へと押し戻してしまいます。
研究者たちは、この大きなテーマの下に、次の5つの具体的な経験が共通して見いだされたとまとめています。

 

1.「想像していた生活ではなかった」という実感

診断がつくまでのあいだ、保護者は「自分の育て方が悪かったのでは」と自分を責め続けることがありました。
診断がついた後に「誰のせいでもない」と頭では納得しても、社会からの理解不足によって、子どもの毎日が必要以上に難しくなってしまうことへの不公平感は消えません。
「こうなるはずだった」と思っていた学校生活や友だち関係、家族の行事が、予想外の困難に満ちていると感じられたのです。

2.孤立

外出先でのかみつきや強い抵抗など、周囲の人が驚く行動が起きると、その場にいる他者の視線や言葉が、親子を深く傷つけることがあります。
「また同じことが起きるかもしれない」と予期して、出かけないことを選ぶ日が増えていきます。
介助の手が足りないと、仕事の付き合いや気晴らしも難しくなり、親自身が「◯◯の母/父」以外の自分を見失っていく感覚が語られました。

3.将来への不安

子どもが思春期以降に体格が大きくなるほど、気持ちが爆発したときに安全を保てるのかという現実的な心配が強まります。
親が年を重ねた後の生活、財産管理や判断の支え、誰が最終的な決定を担うのかといった重いテーマを、早い段階から考えざるを得ません。
ニュースなどで、特性への理解不足から不幸な事態に至った事例を見ると、「自分の子に何かあったら」という恐れが増す、といった声もありました。

4.スティグマ(偏見・烙印)

見た目ではわかりにくい「目に見えない障害」であるがゆえに、「甘やかしている」「しつけが足りない」といった、親への非難に直面する場面が語られました。
公共の場で安全確保を優先して迅速に対応しても、事情を知らない人から「なぜそうするのか」と責められることがあります。
さらに、理解や支援が得られるはずの学校や専門職の場で、子どもの困りごとの根っこが伝わらず、排除に近い対応が続くと、「守ってあげられない」痛みが親の中に積もっていきます。

5.「ポジティブを見いだす」過程

診断がつくことで、長いあいだ背負ってきた罪悪感が軽くなり、「うちの子はわざと困らせているのではない」と確信できるようになります。
そこから、他の家族への共感、ねばり強さや忍耐、子どもの成長の小さなサインを確かに受け取れる喜びが育っていきます。
同じ経験を持つ親どうしがつながれる場(特別支援学校など)では、安心や所属感が回復し、日々をやっていく力になります。

この研究は、数を扱う統計研究ではなく、少人数から深く学ぶ質的研究です。
対象は男子の親に限られており、一般化が目的ではありません。
また、研究チームは自閉症のある人々と家族の支援に関わる経験を持っており、その強みと同時に解釈への影響の可能性についても自覚的でした。
だからこそ、語りの原文に立ち返る手続きを重ね、参加者の体験に忠実であろうと努めています。

では、この研究から何がいえるでしょうか。

まず、「攻撃的」と見える行動を、単なる「悪い行為」ではなく、強い困り感の表現として受け止める視点の重要性が、親の語りから改めて浮かび上がります。
次に、親子が社会の中で孤立へ追い込まれないためには、周囲の人が「事情を知らない目線」を自覚し、子どもの安全確保を最優先にする親の判断を尊重することが不可欠です。
さらに、学校や医療・福祉の現場では、「その子にとって何がつらさの引き金か」「どう支えると落ち着けるか」といった具体的な手がかりを、親と一緒に見つける姿勢が求められます。

研究チームは、今後の研究と実践づくりを自閉症当事者と共同で進め、家族全体の孤立やスティグマの影響を減らす方向へ向かうべきだと提案しています。
本研究は、親の「悲しみ」「孤立」「不安」といった感情を否定せず、その奥にある生活の知恵や回復の芽にも光を当てています。
日々の暮らしは、想定と違う連続かもしれません。
それでも、子どもの困り感のサインを「意味のある声」として受け止め、支える手を少しずつ増やし、同じ経験を持つ人とつながることで、親子の毎日はやわらいでいく——そんな道筋が、親たちの言葉から静かに伝わってきます。

(出典:Advances in Neurodevelopmental Disorders DOI: 10.1007/s41252-025-00460-2)(画像:たーとるうぃず)

自閉症でも程度によって、いろいろ異なるだろうと思います。

うちの子は重度の自閉症で知的障害もあり、言葉を話すこともありません。

幼い頃に、言葉を失ってから、自分のとおりにならないと、噛み付いてきたこともありました。

小さな子どもなので、私に噛みついても少々痛いくらいでしたが、他人に噛み付くようになったら大変なので、そうするたびにだめだと教え、幸い1、2ヶ月くらいでしなくなりました。

大きくなっても続くようであれば、本当に親子ともにつらいと想像します。

自閉症の人の自傷行為。感情的な苦痛を減らす、表現手段にも

(チャーリー)


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