この記事が含む Q&A
- 小学校から中学校へ移るとき、自閉症や ADHD の子どもにはどんな心の揺れが起こり得るのでしょうか?
- 研究は安定群・中間群・困りが続く群の3パターンを示し、困りが続く群では緊張が続くこともある一方、環境で改善の見込みがあると示しています。
- 「努力制御」とは何で、なぜ重要なのでしょうか?
- 自分の感情や行動を調整する力で、新しい学校生活のリズムに対応する鍵となり、力が高いほど向き合い方が安定しやすいと説明されています。
- 支援のポイントは何ですか?
- 背中を押す力より隣を歩く伴走者として、環境整備と小さな“できた”を積み重ねる支援を providing し、子どもが自分のペースで前進できるよう大人の寄り添いが大切です。
小学校から中学校へあがる季節は、子どもにとって世界が大きく広がるときです。
授業は教科ごとに教室も先生も変わり、時間割や提出物を自分で把握する必要が生まれます。
休み時間に遊ぶ相手が変わり、教室の空気もこれまでとは違います。
期待がふくらむ一方で、うまくやれるだろうかという小さな不安が胸の奥に宿る時期でもあります。
自閉症やADHDの特性がある子にとっては、とくにこの変化が大きな壁に感じられることが少なくありません。
では、その時期に実際にはどのような心の揺れが起きているのでしょうか。
今回紹介するのは、弘前大学らの研究チームが青森県の小学校6年生と中学校1年生の計2564人を1年間追いかけた調査です。
小学校の終わりと中学入学後に同じ子どもについて質問を行い、学校生活の変化が心の状態にどのような影響を与えるのかを確かめました。
研究が注目したのは、自閉症の特徴、ADHDの特徴、そして「努力制御」と呼ばれる力の3つです。
自閉症の特徴とは、予定の変更や予想外の出来事への対応に負担がかかりやすかったり、人とのやりとりで疲れやすかったりする傾向のことです。
ADHDの特徴は、じっとしていることが難しかったり、注意がそれやすかったり、思いついた行動にすぐ手が伸びてしまったりする点にあります。

そして努力制御とは、今回もっとも重要な言葉で、自分の感情や行動にアクセルやブレーキをかけるように調整する力のことです。
苦手な課題に少しだけ取り組み続けたり、気持ちを切り替えたり、やりたいことを一度止めて考えたりする力といえばより近く感じられるかもしれません。
この3つをもとに子どもたちの状態を分析すると、心の揺れ方には大きく3つの姿が見られました。
ひとつは心の状態が比較的安定している子どもたちで、全体の6割ほどを占めています。
特性は強くなく、学校生活に大きくつまずくことは少ない様子がうかがえました。
もうひとつは中間に位置する子どもたちで、良い日もあればしんどい日もあり、その波も大きすぎず小さすぎず緩やかに揺れている群です。
そして3つ目に最も注目されたのが、困りが続きやすい子どもたちで、全体の6%ほどにあたります。
この子どもたちは自閉症やADHDの特徴が比較的強く、努力制御も弱めで、小学校6年生の段階からすでに心の負担が見られ、中学校に上がってもその傾向が続く様子が確認されました。

しかしここで大切なのは、この3つ目のグループにいた子が必ずしもずっと苦しむわけではなかったという事実です。
同じような特徴を持ち困りの多いスタートを切ったにもかかわらず、中学に入り環境や関わる人が変わることで、緊張が少しずつほどけ、笑顔を取り戻していった子どもたちもいたのです。
研究は、未来は特性の強さだけで決まるものではなく、環境や経験、関わる人のあり方によって変わり得ることを示していました。
この変化を支えたのが「努力制御」という力でした。
努力制御が高い子どもは、中学での新しい生活リズムに飲み込まれにくく、少しずつ自分なりのペースで向き合うことができていました。
そしてこの力は生まれつきだけで決まるものではなく、日々の中で育っていくものであることも示唆されています。
提出物をしまい込まず、目に見える場所で管理できるようにしたり、課題を小さく分けて「できた」を積み重ねられるようにしたり。
うまくいかない日があっても責めるのではなく、やり直せる環境を用意し、「助けて」と言える相手がそばにいることを伝えたり。
そうした経験が少しずつ増えていくことで、子どもは自分の気持ちや行動を扱いやすくなります。
それは努力ではなく、自分という存在の扱い方を覚えていく過程に近いものです。

中学入学という大きな扉の前に立ったとき、子どもたちはそれぞれの歩幅で進みます。
スッと渡る子もいれば、一度立ち止まり、周りを確かめながら一歩ずつ踏み出す子もいます。
その速度が違うことは問題ではありません。
むしろ、その歩幅を大人が受け止めて見守れるかどうかが未来を左右するのだと思います。
研究が教えてくれたのは、特性の強さが未来を決めるのではないということ、支援は早く始めるほど子どもを助けること、そして子どもは関わりと環境によって変化し得るということでした。
困っている子どもに必要なのは背中を押される力というより、隣を歩く伴走者です。
努力制御という小さな舵は、子どもが自分のペースで前に進むときのハンドルです。
その舵が折れずに握り続けられるよう、大人がそっと手を添えるだけでいいのかもしれません。
新しい季節へ向かう子どもたちが、それぞれの形で未来を選んでいけるように。
この研究は、支える側の私たちに、あたたかな希望と現実的な視点を同時に手渡してくれているように感じます。
(出典:Nature Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-025-26430-1)(画像:たーとるうぃず)
小学校から中学校、中学校から高校、高校から大学。
大きく変わるときです。
「困っている子どもに必要なのは背中を押される力というより、隣を歩く伴走者」
そのとおりですね。
「ふつう」になれない私、ADHD女子高生の学校での闘い。研究
(チャーリー)




























