この記事が含む Q&A
- 自閉症の増加は遺伝だけでなく人口構造の影響もあるとされ、似た特性を持つ者同士が結婚しやすい傾向があるという研究の視点はどのようなものですか?
- 強く遺伝と関係すると考えられる自閉症の増加を、人口構造やパートナー選択の視点から整理し、似た特性を持つ者同士が結婚しやすい傾向がある可能性を示しています。
- ソーシャル・レスポンシブネス・スケール(SRS)とは何を測るもので、 ASD の診断検査ではないという点はどういう意味ですか?
- SRSは社会的合図の読み取り方や対人場面での反応の柔軟性・こだわり傾向などを連続的な数値で捉える指標であり、 ASD を診断する検査ではありません。
- 子どもに自閉症がいる家庭では、夫婦が似た側面を強く持つケースより異なる側面を強く持つケースが多いのはなぜと解釈されていますか?
- 子どもに ASD がある家庭では、夫婦が異なるタイプの自閉症的特性を強く持ちやすく、その組み合わせが子どもの特徴の現れ方を多様にする可能性が示唆されています。
自閉症のある子どもの割合は、世界各地で長期的に増え続けています。
診断基準の変化や社会的理解の広がりだけでは説明しきれないほど、一貫した増加が報告されてきました。
この論文が向き合っている問いは、はっきりしています。
強く遺伝と関係すると考えられている自閉症が、なぜこれほど短期間で増えているのか、という点です。
この研究は、環境要因や医療制度の変化ではなく、
「誰と誰がパートナーになるのか」という、人口構造そのものに関わる視点に注目しています。
この研究は、イギリスのルートン・アンド・ダンスタブル大学病院小児科を拠点とする研究チームによって行われました。
研究者たちは、新しい実験を行うのではなく、これまでに発表された研究を体系的に集め、全体像を整理する方法をとっています。
研究の中心にある考え方は、「選択的配偶(アソータティブ・メイティング)」です。
これは、人が無作為に相手を選ぶのではなく、自分と似た特性をもつ相手と結ばれやすいという傾向を指します。

ここで重要なのは、「似ている」という言葉の意味です。
この研究が扱っているのは、性格の好みや価値観ではなく、
社会的な感じ方や対人関係のスタイルといった、自閉症と関係する特性です。
この仮説を検討するため、研究チームは14件、約1万組の夫婦データを含む研究を集めました。
多くの研究で用いられていたのが、「ソーシャル・レスポンシブネス・スケール(SRS)」という質問紙です。
SRSは、自閉症かどうかを決める検査ではありません。
社会的な合図の読み取り方、対人場面での反応、柔軟性、こだわりの傾向などを、
連続的な数値として捉えるための尺度です。
まず研究チームが確認したのは、夫婦のあいだの類似性でした。
分析の結果、夫と妻のSRS得点には、偶然では説明できない程度の相関が認められました。

つまり、
自閉症的な特性の強さは、パートナー同士で似ている傾向がある
という事実が、複数の研究を通して示されたのです。
次に研究チームは、「その類似性が、子どもとどう関係しているのか」を調べました。
ここで、家庭を二つのグループに分けて比較しています。
・子どもに自閉症の診断がない家庭
・子どもに自閉症の診断がある家庭
この二つを比べると、夫婦のSRS得点の関係の仕方に違いが見られました。
まず、子どもに自閉症の診断がない家庭では、夫と妻のSRS得点は比較的きれいに似通っていました。
夫の得点が高めであれば妻の得点も高め、
夫の得点が低めであれば妻の得点も低め、
というように、両者のあいだには分かりやすい相関が見られています。
これは、社会的な感じ方や対人関係のスタイルといった点で、全体として似た傾向をもつ人同士がパートナーになっている状態を示しています。
一方で、子どもに自閉症の診断がある家庭では、様子が異なっていました。

このグループでも、夫婦のあいだに自閉症的特性が見られる点は共通しています。
しかし、SRS得点の関係は、先ほどのような単純な一直線にはなりませんでした。
ここで重要なのは、SRSの得点が一つの数値であっても、その中身は複数の側面から成り立っているという点です。
社会的な合図の読み取り、対人場面での反応の柔軟さ、こだわりの傾向など、
いくつかの異なる特性がまとめて反映されています。
子どもに自閉症の診断がない家庭では、夫婦が「同じような側面の特性」を持っていることが多かったのに対し、
子どもに自閉症がいる家庭では、夫と妻がそれぞれ異なる側面の特性を強く持っている可能性が示されました。
研究者たちは、この違いを次のように解釈しています。
両親が同じ特性を強く持つ場合よりも、異なる種類の特性が組み合わさることで、子どもではより広い形で特性が現れる可能性があるのではないか、という考え方です。
これは、特性の強さが単純に足し算される、という話ではありません。
特性の「組み合わせ方」が変わることで、子どもに現れる特徴の構成が変わる可能性を示しています。
ここまで読むと、読者の中には次のように感じる人もいるかもしれません。
「では、似た人同士が結婚しない方がいい、ということなのか」と。
しかし、この論文は、そのような結論を導いていません。
むしろ、その考え方自体が、この研究の射程外にあります。

まず、この研究が扱っているのは、個人の選択の良し悪しではありません。
数万人、数百万人という単位で見たときに、社会全体の中でどのような組み合わせが増えると、結果としてどのような分布が生まれるのかを扱っています。
また、選択的配偶は、特別な行動ではありません。
人が似た相手に安心感や理解を感じることは、多くの社会で自然に起きてきたことです。
この研究は、「似た人と結婚するのは問題だ」とも、「違う人を選ぶべきだ」とも言っていません。
示しているのは、個々の選択が集まったときに、人口全体ではこうした傾向が現れうるという説明です。
さらに重要なのは、この研究が予測や介入を目的としていない点です。
誰かの結婚や生き方を制限したり、評価したりするための研究ではありません。
自閉症の増加を理解するためには、医療や支援だけでなく、人と人がどう結びつく社会なのかという構造的な視点も必要になる。
この論文は、その一つの可能性を、慎重に整理して示したものです。
(出典:children DOI:10.3390/children13020244)(画像:たーとるうぃず)
子どもに自閉症がいる家庭では、夫と妻がそれぞれ異なる側面の、自閉症の特性を強く持っている可能性。
そんなことがあるのですね。
(チャーリー)





























