この記事が含む Q&A
- 指さしを学ぶことは自閉症の子どもにとってどんな意味がありますか?
- 指さしは相手と世界を共有する基礎的なコミュニケーション手段で、言葉の学習の土台になり得ます。
- 研究では近距離から離れた物への指さしはどう広がりましたか?
- 近距離の指さしを覚えると、そのスキルが自然に約60cm・120cm・180cmの距離の物にも指さしが見られるようになりました。
- 研究の限界は何ですか?
- セッション回数が5回と少なく、認知能力の測定が行われず、指さしと語学習得の直接的な関連は未検証です。
小さな子どもが、ほしいおもちゃを指さして「これ」と伝える。
この何気ない行動は、実は言葉の発達にとても深く関わっていると考えられています。
指さしは、赤ちゃんが言葉を話すより前にあらわれる大切なコミュニケーションの方法です。
子どもが何かを指さすと、周囲の大人はその対象に注意を向けます。そして「これは○○だね」と言葉をかけたり、欲しがっている物を渡したりします。こうしたやり取りを通して、子どもは言葉と世界の関係を学んでいきます。
しかし、自閉症のある子どもでは、この「指さし」の発達が遅れたり、あまり見られなかったりすることが知られています。
指さしが少ないと、大人とのやり取りが生まれる機会も減り、結果として言葉の学習にも影響が出る可能性があります。
そこで今回、アメリカのネブラスカ大学メディカルセンターにあるモンロー・マイヤー研究所の研究チームは、自閉症のある子どもに「指さし」を教えることができるのかを調べました。
研究の目的は大きく三つありました。
一つ目は、支援によって子どもが近くの物を指させるようになるかどうか。
二つ目は、そのスキルが離れた物への指さしにも広がるかどうか。
三つ目は、その行動が時間がたっても続くかどうかです。

研究には、3歳から11歳までの自閉症の子ども12人が参加しました。
全員が言葉によるコミュニケーションに困難があり、指さしもほとんど使っていませんでした。
子どもたちは、大学の医療センター内にあるクリニックで応用行動分析(ABA)の支援を受けていました。
この研究では、その支援の一環として指さしを教えるプログラムが行われました。
実験では、テーブルの上に三つの物が置かれました。
そのうち一つは子どもが好きそうな物、残り二つはあまり興味がない物です。
子どもがほしい物を見たり手を伸ばしたりしたとき、研究者は「指さし」をするようにサポートしました。
最初は手を添えて指を伸ばすように助けるなど、かなり強い支援を行います。
その後、子どもができるようになるにつれて、少しずつ支援を減らしていきました。
この方法は「エラーレス・プロンプティング」と呼ばれます。
子どもが間違える前に正しい行動を助け、成功体験を積み重ねていく支援方法です。

研究ではまず、近くにある物を指さす「近距離の指さし」を教えました。
そして、それができるようになった後で、少し離れた場所の物への指さしが自然にできるかどうかを調べました。
実験の結果、12人のうち9人の子どもが、近距離の指さしを習得しました。
そして興味深いことに、その子どもたちは追加の練習をしなくても、より遠くの物を指さすようになりました。
具体的には、
約60センチ
約120センチ
約180センチ
という距離の物に対しても指さしが見られるようになりました。
つまり、近くの物への指さしを覚えると、そのスキルが自然に広がっていったのです。
さらに研究チームは、4週間後にも同じ行動が続いているかを調べました。
その結果、多くの子どもで指さしは維持されていました。
ただし、すべてが順調だったわけではありません。
3人の子どもは、指さしを習得することができませんでした。
研究者たちは、この違いがなぜ生まれるのかについても検討しています。
たとえば、言語能力の発達レベルを示すVB-MAPPという評価の得点を比較しました。
しかし、結果を見ると、得点の高い子どもが必ず成功するわけでもなく、低い子どもが必ず難しいわけでもありませんでした。
つまり、この評価だけでは、誰がうまく学べるかを予測することはできなかったのです。
また、最初にどれくらい強い支援が必要だったかも、最終的な成功とはあまり関係がありませんでした。
手を添えるような強い支援から始めた子どもも、見本を見せるだけで始めた子どもも、どちらも指さしを習得することがありました。
研究者たちは、この結果から、指さしを学ぶ能力には個人差がある可能性が高いと考えています。
さらに、この研究にはいくつかの限界もあります。
たとえば、セッションごとの試行回数は5回と少なめでした。
これは子どもが疲れたり、嫌がったりすることを防ぐためでしたが、その分、行動の変化がゆっくり見える可能性があります。
また、子どもの知能や認知能力を測る標準的な検査は行われていませんでした。
そのため、認知能力が指さしの習得にどう関係するのかは分かりません。
さらに、この研究では「指さしを覚えたことで言葉が増えたのか」という点までは調べていません。
指さしが言葉の発達につながるのかどうかは、今後の研究課題です。

それでも今回の研究は、自閉症の子どもにとって重要な可能性を示しています。
指さしは、ただのジェスチャーではありません。
それは「相手と世界を共有する」ための行動です。
子どもが何かを指さすと、大人はその対象を見て、同じものに注意を向けます。
この「共有された注意」は、社会的コミュニケーションの基礎となる能力と考えられています。
今回の研究は、自閉症のある子どもでも、このような行動を学ぶことができる可能性を示しました。
そしてもう一つ重要な点があります。
近くの物を指さすことができるようになると、より遠くの物にも自然に指さすようになったということです。
つまり、最初の一歩を教えることができれば、その後のコミュニケーションが広がっていく可能性があります。
研究者たちは、今後の課題として次のような点を挙げています。
指さしを教えることが
・言葉の習得
・語彙の増加
・社会的なやり取り
にどのような影響を与えるのかを詳しく調べる必要があるということです。
とくに、ほとんど言葉を話さない自閉症の子どもにとって、こうした研究はとても重要です。
指さしは、小さく見える行動です。
しかし、その背後には、社会的理解や言語発達につながる大きな意味があります。
今回の研究は、その小さなジェスチャーが、コミュニケーションの扉を開く可能性を持っていることを示しています。
(出典:Behavioral Sciences DOI:10.3390/bs16030401)(画像:たーとるうぃず)
うちの子は自分で指差しをすることはまったくありません。
「これをとって」
そう、私が指差しをしても、指から10cm以内でないと「これ」がわかりません。
それでも、小さな頃よりはできるようになってきてうれしく思います。
「相手と世界を共有する」ための行動
たくさん共有したいですね。
(チャーリー)




























