
この記事が含む Q&A
- 自閉症と拒食症にはどのような関連性がありますか?
- 自閉症の感覚過敏やこだわりが拒食症と類似し、併発するケースが多いと研究で示されています。
- どうすれば、発達障害のある人に適した摂食障害の支援が可能ですか?
- 感覚や特性に配慮した個別の治療プログラムを、本人が参加して設計することが重要です。
- 自閉症の認知と診断の理解を深めるために私たちは何をすれば良いですか?
- 誤解を解き、正しい知識と理解を広める教育や情報共有を積極的に行うことが役立ちます。
わたしは、自分自身が見えていませんでした。
フィオナ・ライトは18歳のとき、突然食べられなくなる症状に襲われました。
食事をするたびに、吐き気が抑えられず、食べ物を吐いてしまうようになったのです。
医師からは非常に珍しい胃の病気だと告げられました。
けれど、根本的な治療法はなく、彼女は吐き気を避けるために「食べないこと」を選びました。
その結果、次第に体重は減り、「拒食症」と診断されました。
フィオナが医療機関で受けた拒食症の治療は、8年間に及びました。
その内容は、集団での食事や苦手な食べ物を食べさせるトレーニング、そして自分の身体イメージを改善するためのカウンセリングでした。
ところが、フィオナ自身は体型や外見に強いこだわりを感じたことがありませんでした。
拒食症といえば、自分の体が醜く見える、太るのが怖いといった特徴が知られています。
しかし、フィオナにはそのような症状が一切なかったのです。
医師はそれを信じませんでした。
「本当は痩せたいのでは?」「自分の外見に満足していないのでは?」と何度も何度も繰り返し質問されました。
フィオナはそのたびに「違います」と答えましたが、医師たちにはまったく受け入れてもらえませんでした。
医師たちは「拒食症患者は、自分が病気であることを認めないものだ」と信じ込んでいたからです。
フィオナは次第に医師たちを信じることが難しくなりました。
自分のことをどれほど正直に話しても、それはすべて「拒食症の患者が話すこと」としてしか聞いてもらえません。
医師とのやりとりは常に無力感と疲労感に満ちていました。
この経験がフィオナの自己否定につながりました。
何度治療を受けても改善しないのは「自分の努力が足りないから」「自分が悪いから」と思い込むようになりました。
その結果、体調も心の状態もどんどん悪化していきました。
転機が訪れたのは、恋人が自閉スペクトラム症(自閉症)と診断されたときでした。
診断結果を恋人と一緒に読んだフィオナは、自分にも同じ特徴があることに気がつきました。
「これはまさに、私たちがお互いを好きになった理由そのものだ」と思ったのです。
この出来事からフィオナは、自閉症について調べ始めました。
そして最近、自閉症と摂食障害には深い関連があることが明らかになってきたことを知りました。
自閉症の人は感覚が過敏で、特定の食べ物の味や食感、においに強い抵抗感を持つことがあります。
また、決まった食べ物だけを好み、それ以外は拒否する傾向もあります。
こうした特徴は、「拒食症患者が食べ物を拒否する行動」と見た目が似ているため、医師たちはこれを「拒食症の症状」だと誤解することがよくあるのです。
イギリスの摂食障害クリニックで働いていた心理学者たちが、自閉症患者の支援経験を活かして両者の関連性に注目しました。
その結果、自閉症と診断された人の中に、摂食障害、とくに拒食症を併発するケースが非常に多いことがわかりました。
最新の研究では、拒食症患者の20〜30%が自閉症である可能性が示されています。
これは一般人口での自閉症の割合(約1%)に比べ、非常に高い数字です。
この研究によって、フィオナの長年の苦しみが、ようやく説明できるようになりました。
フィオナは36歳で、自閉症と診断されました
フィオナが食べられなかった理由は、太ることへの恐怖ではなく、自閉症特有の「感覚過敏」にあったのです。
医師たちはそれにまったく気づきませんでした。
だからこそ、長年にわたる治療はすべて失敗に終わったのです。
フィオナはあるとき、医療記録を取り寄せました。
当初は「なぜ自分の本当の姿に気づかなかったのか」と怒りをぶつけるつもりでした。
しかし実際に記録を読んだ彼女は深い悲しみに包まれました。
そこには、フィオナ自身が伝えたかったことが、ただの一つも書かれていなかったのです。
しかし同時に、あることに気がつきました。
自閉症と摂食障害の関係がわかる前は、医師たちにも気づきようがなかったのです。
「まだ存在しない知識を使って、人を診断することは誰にもできなかった」
そう気づいたことで、彼女の気持ちは少し救われました。
フィオナは「自分が悪かったのではない」と理解しました。
ただ、自分の脳の働きが他の人とは違っていただけだったのです。
この気づきは彼女を救い、長年抱えていた自己否定や恥の感情が和らぎました。
今では、自閉症の人が抱える感覚過敏やこだわりを考慮した、新しい摂食障害の治療方法が研究されています。
その方法では、無理に苦手な食べ物を食べさせたり、強いストレスになるような集団行動をさせたりしません。
当事者自身が治療プログラムの設計に関わり、自分の感覚や特性に合った方法を見つけていきます。
フィオナは、この新しい動きを歓迎しています。
彼女のように、医療機関で誤った診断のもと、苦しみ続ける人が少なくなっていくことを願っています。
「以前の私のように、誰にも気づかれず、理解されないまま苦しむ人が減っていくでしょう。
そのことが、私にとって何よりの救いなのです」
(出典:豪シドニー大学)(画像:たーとるうぃず)
知られていなかった。
そのために、適切な支援が受けられない。
これは、現在でも起きているはずです。
だからこそ、こうした経験の共有や研究の進展が、いつまでも必要とされます。
必要とされている方に適切な支援が届くために。
自閉症と摂食障害の共通性。拒食症の人のなかに自閉症の人も多い
(チャーリー)