
この記事が含む Q&A
- 脳の成熟度が高い子どもは感情を抑える傾向がありますか?
- はい、脳の成熟度が高いほど感情を表に出さず抑える傾向が強まることがわかりました。
- ADHDの子どもたちの感情コントロールには、何が関係しているのでしょう?
- 脳の成熟度と環境要因の両方が関係し、特に脳の成熟度が影響しています。
- AIを使った脳の分析は、子どもの心の問題予測に役立つ可能性がありますか?
- はい、脳の成熟度を把握することで、感情や行動の予測に役立つと期待されています。
注意欠如・多動症(ADHD)は、じっとしていられなかったり、集中できなかったり、衝動的な行動が目立つ発達障害です。
これまでの研究では、ADHDの原因のひとつに「脳の成熟がゆっくり進む」ことがあると考えられてきました。
また、ADHDの子どもたちは感情をコントロールするのが苦手だということも知られています。
今回紹介する研究では、「脳が成熟するスピード」が実際に感情のコントロールの仕方に影響を与えるのかを調べました。
この研究はハンガリーの研究チームが行ったもので、アメリカの大規模な研究プロジェクト「ABCD研究」のデータを使っています。
研究ではまず、9〜10歳の子どもたち2,711人の脳画像をMRIで撮影しました。
次に、その脳画像をAIで分析して、子どもたちの「脳の年齢」を予測しました。
その予測された脳の年齢と実際の年齢との差(ブレインPAD)を計算することで、「脳が実年齢よりも成熟しているか、あるいは遅れているか」を判定しました。
その3年後、同じ子どもたち(12〜13歳)に、自分自身の感情をどのようにコントロールしているかを尋ねました。
質問は、「感情を抑える(表情や態度に出さない)」方法と、「状況の見方や考え方を変えることで感情を落ち着かせる」方法の二種類に分けて行いました。
その結果、実際の年齢より脳の成熟が進んでいる子ども(ブレインPADが高い)は、感情を表に出さず抑え込む方法をよく使う傾向があることがわかりました。
一方、「状況の考え方を変える」方法とは、とくに関連がありませんでした。
また、保護者が答えた子どものADHDの症状と、感情の抑え込みとの関係も調べましたが、ADHDの症状が強くても、脳の成熟の影響ほど強い関連は見られませんでした。
つまり、感情を抑え込む傾向には、ADHDの症状よりも脳の成熟度の方が大きな影響を与えていることがわかったのです。
しかし、感情を抑え込むことは必ずしもよいことばかりではありません。
感情を長く抑え続けると、ストレスや心の病気の原因になることも知られています。
実際、感情を抑え込む傾向は、うつ病や不安症、PTSDなど、さまざまな精神的な問題につながる可能性があります。
では、ADHDが感情のコントロールに直接関係しないのはなぜでしょうか。
研究チームは、「感情のコントロールには脳の成熟のほかに、家庭や友達との関係など環境面での影響も大きい」と考えています。ADHDの子どもたちは、家庭や学校でのストレスや友人関係のトラブルなどを経験することが多いため、こうした外部の要素が感情のコントロールを難しくする可能性があるのです。
今回の研究は、脳の成熟度が子どもたちの感情のコントロール方法に深く関わっていることを示しました。
将来的には、このようなAIを使った脳の分析が、子どもの心の成長や問題を予測するのに役立つかもしれません。
研究チームは今後も、脳の成熟度がどのように子どもの感情や行動に影響を与えるのかを詳しく調べていく予定です。
子どもたちが感情をうまくコントロールし、心の健康を保てるよう支援するためにも、こうした研究は重要です。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
脳画像をもとにAIが導いた「脳年齢」と、実際の年齢との関係からわかったこと。
AIにより実現できた新しい洞察の成果ですね。
(チャーリー)