
この記事が含む Q&A
- プロバイオティクスは自閉症やADHDの症状を完全に治すことができますか?
- いいえ、現時点では症状の緩和や改善の可能性が示されているに過ぎません。
- どの年齢の子どもにプロバイオティクスの効果が期待できますか?
- 5歳から9歳までの子どもたちに特に顕著な改善が見られました。
- プロバイオティクスの摂取は安全ですか?
- はい、副作用がほとんどなく安全に取り入れられると考えられています。
スペインのウルビ大学の研究チームが、自閉症やADHDの子どもたちにプロバイオティクスという「生きた細菌」を使った研究を行いました。
自閉症やADHDは、人とのコミュニケーションや注意力、多動性といった面で課題を抱えることがあり、多くのご家族が何らかの支援を探しています。
そこで注目されたのが「プロバイオティクス」です。
プロバイオティクスとは、人間の体に良い影響をもたらす生きた細菌のことです。
私たちの腸の中には数えきれないほどの細菌が住んでいて、これらは「腸内細菌」と呼ばれます。
腸内細菌には、消化を助けたり、体の調子を整えたりする働きがあります。
ヨーグルトや納豆などの発酵食品にも含まれている乳酸菌やビフィズス菌も、プロバイオティクスの一種です。
最近では、プロバイオティクスが腸内だけでなく、心や脳にも良い影響を与えるのではないかと考えられています。
腸と脳は密接に関係しており、腸の健康が良い状態だと、脳にも良い影響があることが分かってきました。
この研究では、自閉症とADHDの診断を受けた5歳から16歳までの子どもたち80人に協力してもらいました。
参加した子どもたちは、無作為に二つのグループに分けられました。
一方のグループは12週間にわたり、ラクチプランティバチルス・プランタルムとレビラクチバチルス・ブレビスという2種類のプロバイオティクスを毎日摂りました。
もう一方のグループは見た目も味も同じですが、実際にはプロバイオティクスを含まないプラセボ(偽薬)を摂りました。
研究者も保護者も、どちらのグループかは分からないまま調査が行われました。
研究では、保護者が子どもの行動や症状を評価するアンケートに答えたり、子ども自身がコンピューターを使ったテストで注意力や衝動性を調べたりしました。
さらに、睡眠や生活の質についても調べました。
12週間の調査を終えて全体を分析したところ、プロバイオティクスを摂ったグループとプラセボを摂ったグループの間に、はっきりとした差は見られませんでした。
ところが、年齢ごとに分けてもう少し詳しく分析をすると、興味深い結果が現れました。
とくに5歳から9歳までの小さな子どもたちでは、プロバイオティクスを摂った子どもたちに明らかな変化が見られたのです。
自閉症の子どもでは、多動や衝動的な行動が少し落ち着き、症状が改善したことが分かりました。
ADHDの子どもでも、多動性や衝動性が改善した傾向が見られました。
さらに、自閉症の子どもたちが行った注意力のテストでは、プロバイオティクスを摂ったグループで「衝動的な間違い」が減るという結果が出ました。
これは、プロバイオティクスが子どもたちの脳の働きに良い影響を与え、行動や反応のコントロールがしやすくなった可能性を示しています。
では、なぜプロバイオティクスがこのような良い結果をもたらしたのでしょうか?
研究チームは、プロバイオティクスとして用いたラクチプランティバチルス・プランタルムとレビラクチバチルス・ブレビスという細菌が、「ドーパミン」と「GABA(ギャバ)」という脳の神経伝達物質を腸内で作る働きを持っていることに注目しています。
ドーパミンは、注意力や集中力をコントロールする役割があり、不足すると注意が散漫になったり、衝動的な行動が増えたりすると言われています。
また、GABAは興奮を抑えて気持ちを落ち着かせる働きを持つ物質です。
このGABAが不足すると、落ち着きがなくなり、衝動的な行動が出やすくなることが知られています。
今回の研究で使用されたプロバイオティクスの菌株は、これらのドーパミンやGABAの生成を助ける働きを持つことが以前の研究でも報告されています。
つまり、子どもたちがプロバイオティクスを摂ることで、腸内でドーパミンやGABAが増え、その結果、脳や心に良い影響を与え、多動性や衝動性が改善した可能性があると考えられているのです。
一方で、自閉症の子どもが抱える人とのコミュニケーションの難しさや、ADHDの子どもが抱える注意力が続かないという問題については、改善効果が見られませんでした。
これは、こうした症状がドーパミンやGABA以外にも複雑な脳のメカニズムや他の神経伝達物質とも深く関係しているからだと考えられます。
つまり、今回のプロバイオティクスだけで自閉症やADHDのすべての症状を改善するのは難しかった、ということです。
また、この研究に参加した子どもたちの多くは比較的症状が軽く、重度の症状を持つ子どもは少なかったため、全体としてはっきりした効果が出にくかった可能性もあります。
それでも、とくに小さな子どもたちに対して一部の症状改善が確認できたことは非常に大きな意味を持ちます。
研究チームは、プロバイオティクスが薬のように強い副作用もなく安全で取り入れやすいため、症状が特に強く出る小さい頃から利用することで、毎日の生活の質を良くする手助けになるかもしれないと期待しています。
今後は、より多くの子どもたちに参加してもらい、さらに詳しく長期的に調べる必要があります。
また、症状が重い子どもや薬との併用で効果があるのかも、引き続き研究が求められています。
腸と脳をつなぐプロバイオティクスが、自閉症やADHDを抱える子どもたちの新しい希望の一つになることが期待されます。
(出典:Research on Child and Adolescent Psychopathology)(画像:たーとるうぃず)
「子どもたちがプロバイオティクスを摂ることで、腸内でドーパミンやGABAが増え、その結果、脳や心に良い影響を与え、多動性や衝動性が改善した可能性がある」
これなら、たしかに納得ですね。
「治す」ようなことではありません。自閉症やADHDの症状を緩和する可能性があるという研究です。’
(チャーリー)