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自閉症やADHDの人が直面する「動き出せない心の壁」

time 2025/08/12

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

自閉症やADHDの人が直面する「動き出せない心の壁」

この記事が含む Q&A

タスク開始が難しいのはなぜですか?
脳の情報処理の個性の差により、得意・不得意が大きく分かれ、努力不足ではなく動き出しの難しさが生じることがあります。
ウォール・オブ・オーフルとはどういうものですか?
過去の失敗やネガティブな感情が積み重なって見えない壁となり、動けないという反応を生み出します。
その壁を越える具体的な工夫には何がありますか?
PINCHの5要素(Play、Interest、Novelty、Challenge、Hurry Up)を小さなドアとして取り入れ、やり方や場所を工夫して始めやすくします。

私たちの生活は、一日の中でたくさんの「やらなければいけないこと」であふれています。

仕事や勉強、家事、買い物、健康管理、人間関係の連絡など、それぞれに期限や手順があり、何も考えずにスムーズに取りかかれることもあれば、なぜか頭ではわかっていても動き出せないこともあります。

この「動き出す力」を、心理学や教育の分野では実行機能(エグゼクティブ・ファンクション)の一つとしてとらえます。
その中でも「タスク開始(タスク・イニシエーション)」と呼ばれるスキルは、ある作業や課題をスタートさせる能力のことを指します。

発達や認知の特性が多様な人たち、つまりニューロダイバージェント(ADHDや自閉症、学習障害などを含む脳の特性を持つ人)にとって、このタスク開始は得意な場合もあれば、とても難しい場合もあります。

これは怠けや意志の弱さではありません。脳の情報処理の仕組みや神経の働き方が、生まれつき少し違っているために起こります。
得意な分野では驚くほど集中して成果を出せる一方で、苦手な分野ではなかなか進められない、という差が大きく出るのです。

大切なのは、この「できる/できない」の差が本人の努力不足ではないという理解です。
そのうえで、自分の脳の特性を知り、どうすれば取りかかりやすくなるかを探すことが、生活を楽にする第一歩になります。

ADHDコーチのブレンダン・マハンが提唱したウォール・オブ・オーフル(動き出せなくさせる感情の壁)という比喩があります。
これは、過去の失敗体験やネガティブな感情が積み重なってできた「見えない壁」を指します。

  • やろうとしたのにまた間に合わなかった
  • 注意されてがっかりされた顔を見た
  • 自分でも「またやってしまった」と自己嫌悪した
  • 周りの人には簡単そうなことが自分にはどうしても始められなかった

こうした経験が繰り返されると、「どうせ今回もできないだろう」という感情が先に立ち、実際の作業に取りかかる前に心が重くなります。


このウォール・オブ・オーフルは、特別な出来事だけでなく、日常のあらゆる場面で顔を出します。

  • 朝のルーティン(歯磨き、着替え、準備)
  • 掃除や片づけ
  • 食事の準備や買い物、献立作り
  • 請求書や税金などの支払い
  • 未読メールの整理
  • 学校や仕事の長期プロジェクト
  • 読書や文章作成

一見「簡単そう」に見えるこれらの作業も、壁があると途端に手がつけられなくなります。
そして周りからは「なぜそんなことができないの?」と不思議がられることも多く、さらに自己評価が下がる悪循環になります。
この壁に直面したとき、多くの人が自然ととる行動は、人間のストレス反応と似ています。

  • じっと見つめる(フリーズ):頭の中でやらなければと思いながらも動けず、時間が過ぎてしまう
  • 避ける(フライト):あえてそのことを考えず、他の作業や娯楽に逃げる
  • 怒る(ファイト):イライラして自分や周囲に当たり、一時的に動くが後で後悔する

どれも一時的には感情をやわらげますが、根本的な解決にはつながりにくく、むしろ自己批判や人間関係の摩擦を増やすことがあります。


心理的な深い感情処理に取り組むことは有効ですが、時間やエネルギーが限られていると難しい場合もあります。

そんなとき、エレイン・テイラー=クラウスとダイアン・デンプスターが提案するPINCHという戦略が役立ちます。
これは壁を壊すのではなく、「小さなドア」を作って通り抜けるイメージです。

  1. Play(遊び):作業に遊びやご褒美を加える(音楽をかけながら掃除する、終わったら好きなお菓子を食べる)
  2. Interest(興味):自分の好きな要素を混ぜる(好きなキャラクターの文房具で書類を整理する)
  3. Novelty(新規性):やり方や場所を変える(カフェで仕事をする、紙ではなく音声でメモを取る)
  4. Challenge(挑戦):ゲーム感覚で競争や記録を意識する(タイマーを使って10分以内に片づける)
  5. Hurry Up(締め切り効果):誰かに宣言して期限を設定する(「この時間までに送ります」と友人に伝える)

こうした工夫は、脳内のドーパミン(やる気や報酬に関わる神経物質)の分泌を促し、「やらなきゃ」から「やってみよう」に気持ちを切り替える助けになります。

たとえば部屋の片づけが「壁」になっている人の場合、Playなら掃除の途中で音楽に合わせて踊る、Interestならお気に入りの香りのアロマをたく、Noveltyなら今日は机の上だけと場所を限定する、Challengeなら10分で何個片づけられるか数える、Hurry Upなら友人が来る時間をあえて早めに設定するなどが考えられます。

ウォール・オブ・オーフルは、見えないけれど確かに存在する壁です。
これを知るだけでも「自分は怠けているわけではない」と理解でき、自己批判を減らすことができます。

そしてすぐに全部を乗り越えようとせず、小さなドアを一つずつ開けるように進めていくことが、継続的な前進につながります。
PINCHの工夫はその入口です。
あなたの次の「壁」にも、小さなドアをつける方法がきっと見つかります。

(出典:Psychology Today)(画像:たーとるうぃず)

程度は違えど、多くの人にわかる話だと思います。

物と同じで、動き出せば動きます。

なので、

考え出すと、動かない動けない理由探し、ヤル気探しを始めるので、考えないで、始める。

ただ、始める。

私はそうしています。

自閉症の子のストレスを減らし自尊心を高める「ルーティン」

(チャーリー)


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