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ADHDと学業成績の関連、中学3年間で弱まる傾向が明らかに

time 2025/09/03

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ADHDと学業成績の関連、中学3年間で弱まる傾向が明らかに

この記事が含む Q&A

ADHDがある生徒の成績差はいつ頃・どの教科で現れますか?
初期の学年で言語・数学の差がはっきり見えやすいが、時間とともに縮む傾向がある。
ディスレクシアを併発している場合の成績差はどうなりますか?
個人差が非常に大きく、平均値の差が見えにくくなる。
研究が示唆する実務的な支援のポイントは何ですか?
学習行動の土台づくり・評価の入口を増やす・家庭との協働を進める、が後半の格差を減らす可能性がある。

ADHDのある生徒は、一般に同級生と比べて成績が低くなる傾向があるといわれます。
しかし、それはいつ、どの教科で、どの程度はっきり現れるのでしょうか。
そして、その差は時間とともに縮まるのでしょうか。

今回の研究は、独ライプニッツ教育軌跡研究所らによる、ドイツ全国規模の二つの縦断プロジェクトのデータを用いて、平均12歳ごろから3年間、言語と数学の成績を追いながら、その疑問に答えようとしたものです。

研究チームは、ADHDの診断がある生徒と、年齢(月単位)・性別・ディスレクシア(読み書き障害)の有無が一致する生徒を1対1で対応させ、合計368名を解析しています。
成績はドイツの一般的な「1が最高、6が最低」の評定に統一して扱われました。

この分析の結果から、注目すべき点は、ADHDとディスレクシアが同時にある場合、成績の個人差が非常に大きくなるため、平均の差が見えにくくなることです。
逆に、ディスレクシアがない場合には、言語と数学の両方で一貫した成績差が確認されました。

今回の特徴は、二つの生徒集団を、時間の流れとともに比較したことです。
一つ目の集団では2012〜2015年、
二つ目の集団では2019〜2022年に測定が行われました。

どちらの集団でも、最初の学年ではADHDがあることと成績が低めであることの関連がはっきり示されましたが、その関連は学年が進むにつれて弱まりました。
とくに二つ目の集団では、最初の二度の測定では関連が強かったものの、3年目の時点では統計的に有意ではなくなりました。
つまり、中学の学習経験を積むあいだに、ADHDと成績の結びつきが薄れていく兆しが見られたのです。

この「差が縮む」傾向は、単なる平均点の比較だけではなく、経路(パス)モデルという方法でも確かめられています。
経路モデルは、各時点の成績どうしのつながりを考慮しながら、ADHDや性別、家庭の教育年数、家庭で話す言語(移民背景)といった要因がどの時点でどれくらい効いているかを同時に推定します。

その結果、ADHDの影響は入学後早い時期に強く、時がたつにつれて小さくなることが再確認されました。

一方で、親の教育年数や移民背景などの「家庭環境」の要因は、集団や学年によっては後半で強く現れることもありました。
学校の中での学びが進むと、成績の差は必ずしも「ADHDそのもの」だけでは説明できなくなり、家庭環境や学習機会の差が相対的に目立ってくる、という解釈が成り立ちます。

ここで重要な注意点があります。
ADHDとディスレクシアが同時にある場合、成績のばらつきがとても大きく、グループ平均での差が見えにくくなります。
これは「差がない」という意味ではなく、個々の事情を丁寧に見る必要がある、という合図です。
支援の現場では、読み書きに関する直接的な支援と、ADHDの特性に合わせた学習環境づくりを分けて考えつつ、同時に組み合わせる設計が求められます。

教科ごとの違いについてはどうでしょうか。
先行研究では、小学校段階では数学のつまずきが目立ちやすいという報告もありますが、今回の中学段階の追跡では、言語と数学の両方で似たパターンが現れました。

「数学だけが特別に弱い」というより、授業中の指示の理解、課題の提出、授業への参加といった行動面も含めて採点される中学の成績では、幅広い要素が影響していると考えられます。

ここから見えてくる実務的な含意は明確です。

まず、ディスレクシアがないADHDの生徒では、入学直後から言語・数学ともに小さくない成績差が出やすいため、早い段階で学習行動の土台を整える支援が効果的です。
たとえば、課題管理をシンプルにする、指示を短く区切って視覚的に示す、授業参加のしかたを具体的に練習する、といった工夫です。
時間が経つにつれて差が縮む兆しがあるのなら、その「縮む流れ」を後押しすることができます。

次に、ディスレクシアを併発している場合は、読み書きそのものへの直接支援が不可欠です。
個人差が大きいからこそ、標準化された一律のやり方ではなく、到達度の段階に応じた教材の段差づけ、文章量の調整、音声・ビデオの併用、評価方法の柔軟化など、細かい個別化が効いてきます。
平均値では見えない伸びを、個別のポートフォリオ評価や学習記録で可視化していくことが有用です。

さらに、家庭環境の影響が後半で強まる可能性が示唆されたことは、教育政策と学校経営にとって大切なサインです。
家庭の教育資源に左右されにくい学習機会を、学校側が積極的に用意することが、成績格差の固定化を防ぎます。
放課後の補習や学習コーチング、家庭学習の「型」を一緒に作る仕組み、保護者向けの短時間ワークショップなどは、そのための具体的な手段になりえます。

もちろん、今回の研究にも限界があります。
ADHDの下位型(主に不注意優勢か、多動・衝動性が強いか)や服薬状況までは把握していません。
また、新しい集団では高等学校(大学進学コース)在籍者が少なく、学校種の違いが影響した可能性も考えられます。

とはいえ、二つの独立した縦断データがそろって示したのは、「中学の学びの過程で、ADHDと成績の結びつきは弱まりうる」という点でした。
これは、学校での当たり前の営み—授業、課題、評価—の積み重ねが、行動面や学習の段取りの力を少しずつ育て、成績というかたちに反映されていく可能性を示します。

支援の現場に落とし込むなら、次の三つが実行しやすい出発点になります。

第一に、学年初期からの「課題管理の見える化」です。
締め切り、手順、チェックリストを視覚的に固定化し、「できた」を小さく積み上げていくことで、自己効力感を支えます。

第二に、評価の通路を増やします。
口頭での説明、短い小テスト、プロジェクト型課題など、複数の入口を設けることで、注意の途切れやすさが一発勝負にならないようにします。

第三に、家庭との小さな協働を意識します。
家庭の教育資源に差があっても、学校側が「学習の型」を配布し、保護者が無理なく支えられるポイントを具体化すれば、後半に効いてくる格差の芽を早めに摘むことができます。

結論として、今回の縦断研究は、ADHDのある生徒の成績が「ずっと低いまま」ではないこと、特に中学のあいだにその差が縮む可能性があることを示しました。

一方で、ディスレクシアを伴う場合は個人差が非常に大きいため、平均値だけでは見えてこない伸びやつまずきを、個別の支援設計で丁寧に拾い上げる必要があります。
そして、時間とともに相対的に効いてくるのは、家庭の教育資源や言語背景などの要因です。

学校が「誰でも使える学習資源」を整えていくことは、ADHDのあるなしに関わらず、多くの生徒にとって意味のある投資になります。
今回の知見は、行政の支援配分や学校現場の実務を後押しする根拠となり、その先にいる一人ひとりの学びの手触りを、少しずつ確かなものにしていきます。

(出典:Current Psychology DOI: 10.1007/s12144-025-08324-7)(画像:たーとるうぃず)

「ADHDの影響は入学後早い時期に強く、時がたつにつれて小さくなることが再確認されました。」

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