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社交不安をもつ自閉症の子。本人と親の声の違いから見る支援方法

time 2025/09/04

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社交不安をもつ自閉症の子。本人と親の声の違いから見る支援方法

この記事が含む Q&A

自閉症の思春期の子どもが直面する社交不安とは、どんな場面で現れやすいですか?
学校での発表や友達との会話、クラブ活動や習い事など日常場面で不安を感じ避けがちになることがあります。
本人・保護者・専門家の三つの視点を支援にどう活かせば良いですか?
それぞれの声を大切にし、誤差と捉えず意味を理解して総合的な支援方針を決めることが重要です。
自閉症と社交不安を両方持つ子どもへの具体的な支援のポイントは何ですか?
不安とコミュニケーション困難を区分しつつ、小さなステップで参加を促し、日常の「避けている行動」を可視化して支援を設計します。

自閉症のある思春期の子どもたちは、人と関わる場面で強い不安を感じることが少なくありません。
学校での発表や友達との会話、クラブ活動や習い事など、さまざまな日常の中で「避けたい」「怖い」と感じることがあります。

こうした気持ちは「社交不安」と呼ばれます。
社交不安は誰にでも起こるものですが、自閉症のある子どもではより強く、そして長く続くことが多いと知られています。
そのため、自閉症の子どもに社交不安が加わると、学校生活や家庭生活のさまざまな場面で困難が大きくなることがあります。

けれども、この「社交不安」がどれほど生活に影響を与えているのかを正確に測ろうとすると、簡単ではありません。
なぜなら、本人と保護者、そして専門家が見ているものは必ずしも同じではないからです。

本人は「気持ちの不安」を中心に語ることが多く、保護者は「避けてしまう行動」や「やめてしまう様子」をよく観察しています。
専門家はその両方を合わせて判断します。
この三つの視点がずれることは自然なことですが、支援の現場ではときに「どの声を重視するべきか」が迷いの種になります。

今回、アメリカの複数の大学の研究チームが、この問題に正面から取り組みました。
研究を主導したのは、バージニア工科大学心理学部の研究者たちです。
そこに、デューク大学自閉症・脳発達センター、デューク大学精神医学・行動科学教室、ピッツバーグ大学精神科、そしてワシントン大学社会福祉学部の研究者たちが加わりました。

研究に参加したのは、12歳から17歳までの若者60人です。
三つのグループに分かれていました。ひとつは自閉症と社交不安障害を両方もつ若者(AUT+SAD群、20人)、もうひとつは自閉症ではないが社交不安障害をもつ若者(SAD群、20人)、そして最後はどちらもない比較群(20人)です。
各家庭からは本人と保護者が参加し、さまざまな面接や質問紙に答えました。

中心となったのは「社交不安面接(ADIS-5)」という方法です。
これは半構造化面接と呼ばれ、あらかじめ用意された質問に沿いながら、本人や保護者に具体的な場面について尋ねていくものです。
たとえば「初対面の人と会うときにどのくらい不安を感じるか」「人前で話すときにどのくらい避けたくなるか」といった質問です。

それぞれの場面での不安や回避の程度を答えてもらい、そのうえで「生活全体にどのくらい支障があるか」を0から8の数字で評価しました。
これを「インターフェア(支障)」と呼びます。
さらに専門家は、本人と保護者の答えを総合し、観察も加えて「シビアリティ(重症度)」を同じく0から8で判定しました。

保護者はこれに加えて、子どもの行動や生活スキルに関する質問紙にも回答しました。
日常生活の自立度を測る「ヴィネランド適応行動尺度第3版」、目に見える困難な行動を評価する「CBCL(子どもの行動チェックリスト)」、そして自閉症特性を数値化する「SRS-2(社会的反応性尺度)」です。
さらに、IQは「WASI-II」という検査で測定されました。これらを組み合わせることで、子どもの生活全体の特徴を多角的にとらえようとしたのです。

結果ははっきりしていました。

どのグループでも、保護者は本人より「社交不安で生活が妨げられている」と強く答える傾向がありました。
統計的にも有意な差が出ており、保護者の報告は本人よりも常に高い困難を示しました。

とくに自閉症+社交不安群ではその差が顕著で、保護者は「好きな活動まで避けてしまっている」と深刻にとらえていました。
一方、本人が「強いつらさ」を訴えたのは、自閉症ではなく社交不安だけのグループの子どもたちでした。
つまり、自閉症のある子どもは「不安を強く自覚している」とは必ずしも言えないということです。

専門家が総合的に判定した重症度では、自閉症+社交不安の子も、社交不安だけの子も、いずれも比較群より高いスコアを示しました。


つまり、本人と保護者の答えに違いがあっても、専門家の目から見れば両方とも「支援が必要なレベル」と評価されることが多かったのです。
支援の優先順位を考えるとき、こうした第三者の視点が重要であることがわかります。

さらに研究チームは、本人と保護者の答えが「どれだけ一致しているか」にも注目しました。
すると、自閉症のある子では、本人と保護者の答えが近いほど、生活スキルや日常の力が高い傾向が見られました。
逆に、自閉症のない社交不安の子では、本人と保護者の答えがずれているほうが、むしろ生活スキルが高いという意外な結果が出ました。
つまり「ずれ」が示す意味は、子どもの特性によって変わるのです。

一方で、怒りや衝動性などの外在化問題行動については、本人と保護者の一致・不一致との間に明確な関係は見られませんでした。
自閉症特性についても同様で、全体的には大きな関連はなく、一部で社交不安のみのグループで「本人が不安を強く訴えるほどSRS-2のスコアも高い」という関係が見られた程度でした。
年齢やIQによる影響も限定的でしたが、社交不安のみのグループでは出生時に女性とされた若者のほうが本人報告の不安が高い傾向が見られました。

こうした結果から見えてくるのは、支援を考えるときに「本人」「保護者」「専門家」の三つの声をそれぞれ大切に扱うことの重要性です。

本人は自分の内面的な不安を中心に語ります。
保護者は日常生活の中で「避けている行動」「やめてしまう様子」に敏感です。
専門家は両方を統合して診断や支援方針を決めます。
三つの視点の食い違いを「誤差」とみなすのではなく、それぞれが持つ意味を理解することが、子どもに合った支援につながります。

自閉症と社交不安を両方もつ子どもの場合は、さらに注意が必要です。
なぜなら、自閉症の特性と社交不安の症状が似た形で表れることがあるからです。

たとえば「発表を避ける」「人との会話を避ける」といった行動は、不安が原因のこともあれば、コミュニケーションの困難さが背景にあることもあります。
この二つを切り分けずに「不安に慣れさせればよい」と考えてしまうと、子どもにとってはかえって負担が増すことがあります。
だからこそ、小さなステップで無理なく挑戦を積み重ね、必要なら社会的スキルの支援を組み合わせることが欠かせません。

学校や家庭での支援では、「どの活動を避けているか」を目に見える形にすることが役立ちます。

たとえば「友達と遊ぶ誘いを断った」「習い事をやめた」といった具体的な行動を記録し、そこから短時間だけ参加する、得意なことを組み合わせてみる、といった小さな一歩を設計します。
本人が「そんなに困っていない」と言っていても、保護者が「生活に影響が出ている」と感じているなら、それを支援の入口にしていくことができます。

もちろん、この研究にも限界があります。
参加したのは各グループ20人と少なく、すべてIQ80以上で発話が可能な思春期の子どもたちでした。
そのため、より幅広い子どもたちに一般化するには追加の研究が必要です。
また、社交不安以外の診断については網羅的に確認していないため、他の併存症の影響は十分に検討できていません。
それでも、この研究は「誰が、どの場面で見た社交不安なのか」を明確にすることの重要性を強く示しました。

本人の声、保護者の観察、専門家の判断。その三つを並べて考えることが、より正確で本人に合った支援につながります。
食い違いを「誰かが間違っている」と捉えるのではなく、「それぞれが違う現実を見ている」と受け止めること。
これこそが、子どもにとって安心できる支援の第一歩となるのです。

(出典:Frontiers DOI: 10.3389/fpsyt.2025.1524088)(画像:たーとるうぃず)

>保護者は本人より「社交不安で生活が妨げられている」と強く答える傾向がありました。

  • 本人は自分の内面的な不安を中心に語る
  • 保護者は日常生活の中で「避けている行動」「やめてしまう様子」に敏感
  • 専門家は両方を統合して診断や支援方針を決めます。

たしかに、親はそうだろうと自分のことを考えると納得です。

「三つの視点の食い違いを「誤差」とみなすのではなく、それぞれが持つ意味を理解することが、子どもに合った支援につながります。」

自閉症の子の「見る力」と家庭・学校での生活への参加の関連

(チャーリー)


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