
この記事が含む Q&A
- 自閉症の子どもは定型発達の子どもに比べて消化器の不調を経験する割合が高いですか?
- はい、調査では自閉症の子どもはどの年齢でも不調を経験する割合が高く、3回すべてで症状を示したのは自閉症で約30%、定型発達で約7%でした。
- 具体的にどの症状が多く見られましたか?
- 便秘(32%)、下痢(27%)、ガス・膨満感(27%)、腹痛(17%)などが多く報告されました。
- 消化器の不調は子どもの行動や心理的特徴にどう影響しますか?
- 不調を持つ子は社会的・コミュニケーションの困難、反復行動、感覚処理の問題、不安・睡眠の問題などが多く見られ、症状が増えるほど影響が大きくなります。
自閉症の子どもたちに、消化器の不調が多いことは、長年にわたって報告されてきました。
便秘や下痢、腹痛、ガスや膨満感といった症状は、しばしば保護者によって訴えられるものです。
しかし、それがどのくらいの割合で起こり、どのくらい長く続くのか、そしてそのことが子どもの行動や発達にどう関わっているのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
今回、米カリフォルニア大学デービス校のMIND研究所を中心とする大規模な研究チームは、幼児期から学童期にかけて同じ子どもを追跡し、消化器の不調と自閉症との関わりを詳しく明らかにしました。
研究には、合計475人の子どもが参加しました。
そのうち322人が自閉症、153人が定型発達でした。
対象となった子どもたちは2歳から12歳までの間に最大3回の調査を受けました。
調査では、医師によって消化器症状に関する聞き取りが行われました。
便秘、下痢、腹痛、ガスや膨満感、排便時の痛み、嘔吐、飲み込みの困難、血便、吐血といった9種類の症状が評価されました。
食物アレルギーや医師による診断で説明できるものは除外され、原因が不明の症状に焦点が当てられました。
この研究では、症状が「ときどき」「頻繁に」「いつも」あると回答された場合に消化器の不調ありと分類しました。
一方で「めったにない」や「ない」と答えた場合は消化器の不調なしとされました。
さらに、便秘や胃腸疾患など医学的に説明できる診断がある場合は集計から除かれました。
評価は医師2名によって独立して行われ、週ごとの会議で最終的に合意されるという厳密な方法が取られました。必要に応じて小児消化器専門医も協力し、信頼性の高い判定が行われました。
結果は非常に明確でした。
自閉症の子どもは、どの年齢の時点でも定型発達の子どもに比べて消化器の不調を経験する割合が高かったのです。
定型発達の子どもの61%が一度も消化器の不調を訴えなかったのに対し、自閉症の子どもで「一度もない」と答えたのは35%にとどまりました。
逆に、3回のすべての調査で症状を示した子どもは、自閉症では30%にのぼりましたが、定型発達ではわずか7%でした。
2回以上の調査で症状が続いた、つまり持続的な不調を示した子どもは、自閉症では50%に達し、定型発達の18%と比べて大幅に高い結果となりました。
具体的な症状で多かったのは、便秘(32%)、下痢(27%)、ガスや膨満感(27%)、腹痛(17%)でした。
排便時の痛みや嘔吐、飲み込みの困難なども自閉症の子どもで多く見られました。
これらの症状はいずれも定型発達の子どもでも報告はありましたが、その割合は大幅に低いものでした。
さらに、この研究では消化器の不調と行動や心理的な特徴との関連も調べられました。
その結果、消化器の症状を持つ子どもは、持たない子どもに比べて多くの領域で困難を示すことがわかりました。
具体的には、社会的なやりとりやコミュニケーションの困難、反復行動、感覚処理の問題、不安や抑うつ傾向、睡眠の問題、そして身体的な不調の訴えが強くなっていました。
消化器の不調が複数同時にある場合には、その影響はさらに顕著で、とくに感覚過敏や睡眠障害、不安傾向といった問題が強く現れました。
たとえば、夜中に目を覚ます、日中に強い眠気がある、寝つきが悪いといった睡眠の問題は、消化器の不調が多い子どもほど深刻でした。
また、聴覚の過敏さや触覚の敏感さ、味やにおいへの過剰な反応といった感覚の困難も、症状の数に比例して増えていました。
反復行動やこだわりの強さも、消化器の不調と関連していました。
つまり、胃腸の問題があることで、子どもの生活全体に広がる困難が強まっていくということです。
研究チームは、この結果が臨床現場に大きな意味を持つと述べています。
自閉症の子どもは、自分の体の不快感を言葉で伝えることが難しい場合があります。
そのため、行動の変化や問題の増加が、実は体の不調に由来している可能性があるのです。
もし消化器の問題が原因だとわかれば、適切な治療や支援によって子どもの生活の質を改善できるかもしれません。
しかし、症状が見逃されてしまうと、不安や行動の悪化、睡眠障害といった問題が積み重なってしまいます。
また、この研究は、自閉症の子どもにおける医療アクセスの難しさも背景にあると指摘しています。
保護者が症状をうまく説明できないことや、医療者側が自閉症の特性に理解がないことが、診断や治療の遅れにつながることがあるのです。
消化器の不調は放っておくと慢性的になり、行動や心理的な問題を悪化させるため、早期の発見と対応が重要であると研究チームは強調しています。
この研究の特徴は、幼児期から学童期にかけて同じ子どもを長期的に追い、医学的に説明できない消化器症状に限定して詳細に調べた点です。
さらに、評価が医師によって直接行われたことも信頼性を高めています。
ただし限界もあり、親からの報告に依存していること、またアメリカの一地域のデータであるため、他の地域や文化にそのまま当てはまるとは限らないことが指摘されています。
それでも、この規模と精度で行われた縦断研究は非常に貴重であり、自閉症の子どもたちの体と心の健康を考える上で大きな前進となりました。
研究を行ったのは、カリフォルニア大学デービス校MIND研究所、発達行動小児科、精神行動科学科、公衆衛生学科、医学微生物学・免疫学科、小児消化器科のチームであり、さらに米国SUNYダウンステート医科大学も協力しました。
研究は、米国国立精神衛生研究所とMIND研究所の支援を受けて行われました。
この成果は、家庭や教育現場でも示唆に富んでいます。
子どもが「眠れない」「落ち着かない」「すぐに怒る」といった行動を示したとき、ただ性格や発達特性のせいにするのではなく、体の不調が隠れていないかを考えることが重要です。
とくに自閉症の子どもでは、消化器の不調が行動や気分の変化の裏に隠れている可能性が高いのです。
そうした視点を持つことで、子どもの生活をより楽にし、家族の負担を軽くすることができます。
そして医療者にとっても、行動の変化を見たときには消化器の評価を含めた包括的な支援が必要であることを示しています。
(出典:Autism DOI:10.1177/13623613251362349)(画像:たーとるうぃず)
「自閉症の子どもは、自分の体の不快感を言葉で伝えることが難しい場合があります。
そのため、行動の変化や問題の増加が、実は体の不調に由来している可能性がある」
これは、知って、注意しなければなりません。
(チャーリー)