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自閉症・ADHD・学習障害で異なる「読み取りにくい表情」

time 2025/11/20

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

自閉症・ADHD・学習障害で異なる「読み取りにくい表情」

この記事が含む Q&A

自閉症の子どもは、特に「驚き」や「嫌悪」を読み取るのが難しく、怒りは比較的読み取りやすいことがあるのですか?
はい、驚きと嫌悪が難しく、怒りは他グループと同じかより正確に読み取れる場面も報告されています。
ADHDの子どもの特徴は、感情名を当てる能力全体が一般の子どもより低く、特に「怒り」と「悲しみ」が難しい傾向があり、注意の安定性が影響しているという理解で合っていますか?
はい、注意の揺れや集中維持の難しさが、感情を見る際の注意の向け方を乱すことが影響していると考えられています。
学習障害(SLD)の子どもは、6つの感情のうち「嫌悪」だけが読み取りにくく、他は一般群とほぼ差がないという理解でよいですか?
はい、嫌悪のみが読み取りにくく、視覚認知の課題が負荷となる可能性が指摘されています。

人の表情は、わたしたちが思っている以上に奥深いものです。
笑顔の中に少しだけ不安が混ざっていることもあれば、怒っているように見えて、その裏側に戸惑いが隠れていることもあります。
子どもたちは日々、こうした“表情にこめられた気持ち”を感じ取ろうとしていますが、そのやりとりは簡単ではありません。
とくに自閉症やADHD、学習障害(SLD)のある子どもたちは、表情から感情を読み取るときに、周りの大人が想像している以上のハードルに直面していることがあります。

イタリアのパドヴァ大学(ユニバーシティ・オブ・パドヴァ)発達社会心理学部の研究チームは、この「表情から感情を読み取る力(フェイシャル・エモーション・レコグニション)」を、540名という非常に大きな規模で調べました。

対象は、

  • 自閉症のある子ども80名
  • ADHDのある子ども80名
  • SLDのある子ども80名
  • 一般発達の子ども300名

これほど大人数を同じ条件で比較した研究は多くありません。

研究チームが明らかにしようとしたのは、
「4つのグループは、表情を見るときにどこが違うのか」
「その違いは、感情を読み取る力のどの部分に現れるのか」
という点でした。

研究では、子どもたちが画面に映る2つの顔を見比べ、「同じ感情かどうか」を判断する課題と、その表情が「どんな感情か」を言い当てる課題が組み合わされました。
怒り、悲しみ、喜び、恐怖、驚き、嫌悪という6つの感情を使い、さらに“強い表情”と“弱い表情”の2種類を提示することで、現実に近い条件が再現されています。
わたしたちの日常では、強く表れた怒りよりも、「なんとなく機嫌が悪そう」「ほんのり不安そう」という弱い表情を読み取るほうがずっとむずかしいからです。

研究の結果、自閉症、ADHD、SLDは、それぞれまったく異なる「つまずき方」があることがわかりました。
そしてこの違いは、子どもたちが日頃感じている生きづらさと深くつながっています。

まず年齢について、4つのグループすべてで、年齢が上がるほど表情理解の成績が上昇するという共通点がありました。
これは、感情の意味や社会的な合図を理解する力が、年齢とともに育っていくためです。
また、反応が遅いほど正答率が低くなる傾向もあり、素早い判断が必要な場面では、読み取りの難しさが現れやすいことが示されました。
たとえば、教室や放課後のにぎやかな場面では、表情の変化が一瞬で起きることがあります。
この「瞬間的に察する」力が求められる場面で、子どもたちが戸惑いやすい理由の一つです。

次に、表情の強さに関する結果です。
すべてのグループにおいて、弱い表情が提示された場合に成績が下がりました。
強い怒りや強い喜びは比較的わかりやすいですが、弱い怒りや微妙な不安は読み取りが難しく、一般の子どもでも判断を誤りやすいのです。
子ども同士のすれ違いも、こうした“弱い表情”で起きることが多いため、これはとても重要なポイントです。

ここから、4つのグループの違いをさらに詳しく見ていきます。

はじめに、自閉症のある子どもの特徴です。
自閉症の子どもは、「同じ表情かどうか」を瞬時に比べるマッチング課題でもっとも苦戦しました。
これは、表情そのものの理解が弱いというよりも、視覚情報の処理スタイルが異なることが影響していると考えられています。
目元や口元などの「表情を読み取るためのポイント」の見方が一般の子どもと異なる傾向があり、そのため短時間での比較が難しくなる可能性があります。

ただし、自閉症のある子どもは、感情の種類によってはとても正確に読み取っていました。
とくに「怒り」は他のグループと同じか、場合によってはより正確に読み取る場面もありました。
研究チームは、自閉症支援の現場では怒りの表情を学ぶ機会が比較的多く、経験値が蓄積しやすいことが理由のひとつではないかと述べています。

一方で、自閉症の子どもがもっとも難しさを示した感情は「驚き(サプライズ)」と「嫌悪(ディスガスト)」でした。
これらは日常の会話に登場する頻度が低く、また表情の形が微妙に似ているものもあるため、判断が難しくなりやすい感情です。
とくに“嫌悪”は、顔の細かい筋肉の動きや微妙なゆがみを読み取る必要があり、視覚処理のスタイルが影響しやすい感情です。

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つぎに、ADHDのある子どもの特徴です。ADHDの子どもは、表情の名前を当てるラベリング課題で、ほぼすべての感情で一般の子どもより成績が低い傾向がありました。
もっとも苦戦したのは「怒り」と「悲しみ」で、相手が怒っていることに気づくのが遅れたり、悲しんでいることに気づきにくかったりする可能性があることを示します。

しかし、研究チームはこれを「感情理解そのものの弱さ」とは考えていません。むしろ、注意の揺れやすさや集中の維持の難しさが、表情に向ける注意の角度を変えてしまう可能性が大きいと述べています。
つまり、感情を理解する力そのものではなく、感情を見るために必要な“注意の配分”が安定しないことが影響しているという見方です。

そしてSLD(学習障害)のある子どもは、非常に興味深い特徴を示しました。
SLDの子どもは、6つの感情のうち「嫌悪」だけが明確に読み取りにくく、その他の感情では一般の子どもと大きな差がありませんでした。
嫌悪は、視覚的にもっとも複雑で、「口をゆがめる」「鼻をすぼめる」といった細かな表情の要素が関係するため、視覚認知の処理に難しさがあるSLDの子どもにとって特に負荷が高くなると考えられます。
研究チームは、この結果は「SLDにおける高次の視知覚の課題」を反映している可能性があると説明しています。

一方で、全グループに共通する「得意な感情」と「苦手な感情」もありました。
もっとも読み取りやすい感情は「喜び」で、笑顔はだれにとっても比較的わかりやすい表情です。
もっとも難しい感情は「恐怖」で、驚きや不安と似ているため、読み間違えやすい感情です。
これは一般の子どもでも同じ傾向であり、感情ごとに読み取りやすさに差があることがよくわかります。

この研究が教えてくれる大切なことは、「表情の読み取り」は一つの能力ではなく、複数の能力の組み合わせで成り立っているという点です。
表情そのものを見る視覚処理、表情の意味を言語で理解する力、感情の概念を持つ力、そして注意を向ける力。
これらのバランスが人によって異なるため、同じ表情でも「読み取り方」が少しずつ変わってきます。
自閉症、ADHD、SLDの子どもたちは、それぞれ異なる理由でつまずきがあり、それはどれも“その子の感じ方のちがい”に根ざすものであり、決して努力不足ではありません。

また、研究は支援の方向性についても示唆を与えてくれます。

  • 自閉症のある子どもには、「驚き」や「嫌悪」といった経験が少ない感情をゆっくり学べる機会が役立つかもしれません。
  • ADHDのある子どもには、短い集中で取り組める課題や、視覚的な手がかりがある教材が効果的かもしれません。
  • SLDのある子どもには、細かな表情の読み取りを少しずつ積み重ねるアプローチが合っている可能性があります。

研究チームは、最後に静かで重要なメッセージを伝えています。

「表情が読み取りにくいことは、その子が周囲に無関心なのではありません。
その子にとって“その表情が読み取りにくい形だった”だけなのです」

表情の読み取りは、その人の世界の感じ方と深くつながっています。
自閉症のある子ども、ADHDのある子ども、SLDのある子ども。それぞれが、それぞれの見え方と感じ方をもって世界に向き合っています。

この研究は、子どもたちがどのように表情を感じ、どこでつまずき、どんな力が保たれているのかをていねいに解き明かし、わたしたちに「理解への入り口」を示してくれます。
そしてそれは、子どもたちとともに過ごす大人にとって、相手の“感じ方のちがい”に寄り添うための大切なヒントになります。

(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07120-3)(画像:たーとるうぃず)

表情の理解について簡単にまとめると、

  • 自閉症:怒りは得意、驚き・嫌悪が苦手
  • ADHD:怒りと悲しみを中心に、全体的に苦手
  • 学習障害:嫌悪だけ苦手、他はほぼ一般群と同じ

気にすることで、よりコミュニケーションがしやすくなるかもしれません。

表情から感情を読むときの自閉症の子の脳に現れる「がんばり」

(チャーリー)

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