発達障害のニュースと障害者のハンドメイド

表情や言葉が少ない知的障害の子を支える看護師の苦労と工夫

time 2025/11/23

この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。

表情や言葉が少ない知的障害の子を支える看護師の苦労と工夫

この記事が含む Q&A

知的障害のある子どもをケアする看護師が直面する主な課題は何ですか?
コミュニケーションの壁とサインの少なさ、看護負担の大きさ、心理的疲労が挙げられます。
家族の役割はどんな点で重要ですか?
家族は子どもの状態を理解する情報を看護師へ伝える翻訳者の役割を果たし、安心につながる手がかりを提供します。
研究から看護師と家族への支援として何が求められていますか?
教育・研修の充実、家族支援、多職種連携、環境整備が必要とされています。

知的障害のある子どもをケアする看護師の経験は、日常の看護よりもはるかに多くの「見えない複雑さ」を含んでいます。
子どもたちの表情や声にわずかでも変化があれば、それを手がかりに思いを読み取ろうとする。
逆に、何の反応も返ってこないときには、痛いのか、怖いのか、ただ疲れているだけなのか、看護師はその場で判断しなければなりません。

今回の研究は、サウジアラビアのキング・アブドゥルアジーズ大学(King Abdulaziz University)が行った、知的障害のある子どもを看護する看護師の実体験を丁寧に聞き取ったものです。
合計8名の小児看護師の語りから浮かび上がってきたのは、想像以上に大きな“葛藤”と“力強い工夫”、そして“誰にも見えないところで続く気持ちの揺れ”でした。

研究チームは、看護師たちが抱える困難、感情、ケアの工夫、そして必要とされる支援を明らかにするため、半構造化インタビューという方法を用いて一人ひとりの経験をじっくりと聞き取っています。
そこから浮かびあがったテーマは、コミュニケーションの難しさ、看護負担の大きさ、複雑な状況への適応、そして看護師自身と家族双方への支援の必要性の4つでした。
知的障害のある子どもを育てる家族にとっても、現場で働く支援者にとっても、この研究は「日常のケアの裏側で、何が起きているのか」を静かに照らし出します。

まず多くの看護師が語ったのは「コミュニケーションの壁」です。
知的障害のある子どもは、状況を言葉で説明したり、痛みや不安を表情で知らせたりすることが難しいことがあります。
看護師は、表情の変化や声、手足の動き、時には心拍数の変化など“わずかなサイン”を頼りに子どもの状態を読み取らざるを得ません。
しかし、それでもはっきりとした答えにたどり着けないときがあります。
「痛いのか分からない」「熱いと感じているのか分からない」「何を嫌がっているのかが分からない」――そんな状態が続くと、看護師は子どもにとって最善の行動が取れているか自信が持てず、戸惑いや不安を抱えます。

ある看護師は、点滴を入れるときに「痛い?」と尋ねても返事がなく、表情も変わらないまま。
けれど、心拍数だけが少し上がっていく――そんな場面では、「もしかして痛いのではないか」「怖がっているのではないか」と何度も自問しながら、ほんの少しの生理的な変化を頼りに判断するしかありません。
こうした“手がかりの少なさ”は、看護師にとって単なる技術的な難しさではなく、心理的な負担にもつながっていました。

看護師たちは、普段なら子どもの反応を見ながら「もう少し優しくしよう」「温度を変えてみよう」といった微調整ができます。
しかし、子どもから返ってくる情報が少ないと、その調整そのものができなくなります。
結果として、「本当にこれでよかったのだろうか」という不安が胸に残り、それが積み重なるほど、ケアのたびに強い緊張を伴うようになるのです。

コミュニケーションの難しさは、日常のほんの些細な場面でも現れます。
たとえば、ある子どもはベッドに入ろうとせず、泣いたまま3時間以上も眠らなかったといいます。
看護師が原因を探し続けた結果、ようやく「シーツの色が本人の好みと違っていた」という理由にたどり着きました。
他の子どもでは、いつも使っているぬいぐるみが見当たらないだけで強い不安を示し、心拍数が急に上がってしまうこともあります。

こうした状況では、看護師が一人で子どもの状態を読み取ることには限界があります。
そこで重要な役割を果たすのが、日頃から子どもの様子を知る家族や介護者の存在でした。
家族は子どもが安心するアイテムや嫌がる行為をよく理解しているため、看護師にとっては“翻訳者”のような存在になります。
「お気に入りのぬいぐるみが必要」「この順番でケアをすると落ち着く」「この色が嫌い」といったちょっとした情報が、ケアを円滑にし、子どもの負担を減らす手がかりになります。

しかし、常に家族がそばにいられるわけではありません。
仕事や生活の事情で病室に来られない家庭もあり、看護師は「家族がいればもっと安心してケアできるのに」と感じることもあります。
一方で、家族の過度な不安から、看護師の行動に細かく口を出してしまうケースもあります。
「この指にパルスオキシメータをつけないで」「こちらの腕で血圧を測ってほしい」といった要求が続くと、本来のケアに時間がかかってしまうため、看護師も気持ちの整理が必要になります。

加えて、知的障害のある子どものケアには、多くの時間と体力が必要です。
食事、排泄、体位変換、入浴など、基本的なケアだけでも慎重な対応が求められるため、看護師は一度に担当できる人数が限られます。
「1人でも精一杯」「2人が限界」という声もありました。
医療機器を外してしまう、点滴ラインを引っ張ってしまうなどの行動が突然起こることもあり、看護師は常に注意を向け続ける必要があります。

こうした“常時見守り”に近いケアは、集中治療室に近い緊張感を伴います。
「少し目を離した隙に機器を外してしまうのではないか」「息を止めてしまうのではないか」といった不安が頭から離れず、精神的な疲労が蓄積していきます。
看護師たちはその不安の中で、「どうすればもっと安全で楽に過ごせるか」を常に探し続けていました。

なかには、自分の感情に戸惑う看護師もいます。
子どもが痛みを伝えられず、ただ涙を流している。
胸が苦しくなるほど泣いている。
そんな場面を見るたび、「理解してあげられない自分」を責めてしまい、罪悪感を抱えてしまうことがあります。
「もっと寄り添ってあげたいのに」「もっと分かってあげたいのに」と思えば思うほど、子どもの表情の小さな変化を見落とすことが怖くなるのです。

それでも看護師たちは、少しでも良いケアを届けるために工夫を重ねています。
たとえば、処置をするときには好きな動画や音を使って気をそらす。点滴の色を選ばせて、少しでも「自分で決めた」という安心感をつくる。
おもちゃで処置の手順を見せて、見通しを持てるようにする。
さらには、看護師同士で経験や工夫を共有し、「うまくいった方法」「落ち着いたときのコツ」を交換し合うことで、ケアの質を高めようとしています。

この研究から伝わってくるのは、知的障害のある子どものケアが「特別な技術」を必要とするという事実ではありません。
むしろ、一人ひとりの子どもの小さなサインに耳を澄ませ、心に寄り添い、“その子にとっての安心”を探し続けることそのものが看護であるというメッセージです。

あわせておすすめ:

無理なく使える、小さな支えになるかもしれません。

たーとるうぃずのメモ帳カバー

そしてもう一つの重要な視点は、「看護師自身への支援」です。
研究に参加した看護師たちは、研修や教育をもっと充実させてほしいと口をそろえて求めていました。
知的障害のある子どもとの接し方、行動の意味の読み取り方、家族とのコミュニケーション方法などを体系的に学ぶことで、子どもにも家族にも、そして看護師自身にも優しいケアが実現します。

家族もまた、大きな支援を必要としています。
突然の入院や新しい診断に向き合うとき、家族は強い不安や混乱の中にいます。
看護師たちは、家族が必要とするのは情報だけではなく、心理的な支え、同じ状況を理解してくれる人とのつながり、多職種による支援であることを実感していました。

この研究は、「看護師の努力を称賛するだけ」のものではありません。
知的障害のある子ども、家族、看護師――その誰もが孤立せず、安心して向き合える医療環境をつくるには何が必要かを示しています。
ケアの難しさは“子どもの問題”ではなく環境の問題であり、社会全体が理解し、支える必要があります。

知的障害のある子どもをケアすることは、決して“特別な人だけができる仕事”ではありません。
必要なのは、子どもの小さな声に耳を傾けようとする姿勢と、その子らしさを尊重する心です。
そしてその姿勢を支える仕組み――教育、研修、家族支援、適切な人員配置――があれば、どの看護師も、どの家族も、より安心して子どもに向き合えます。

研究の最後には、静かなメッセージが滲んでいました。
「知的障害のある子どものケアは、複雑でありながら深い意味を持つ仕事である。
そのケアを支えるために、看護師にも家族にも支援が必要である」

子どもが安心して過ごせること。
家族が一人で抱え込まないこと。
看護師が疲れすぎず、罪悪感を背負わずに働けること。

そのすべてがそろって、初めて本当の「包括的なケア」が実現します。
今回の研究は、その未来に向けて、静かに、しかし確実な一歩を示しているのです。

(出典:Frontiers in Psychiatry DOI: 10.3389/fpsyt.2025.1688236)(画像:たーとるうぃず)

話すことができない、うちの子についてはまさにこの通りです。

もう大きくなって、ずっと一緒に過ごしてきたのに、なんで泣いているのか、どっちが欲しいのか、そんなこともわからないことが親の私でもよくあります。

申し訳なくなります。

なんとかもっとわかるようにと考え、いろいろ工夫したりしています。

親でさえこうなのですから、看護師さんたちのご苦労、ご理解には心から感謝申し上げます。

うちの子が小さなころ肺炎で入院していたときに、手作りのペットボトルのおもちゃをくださったことを思い出しました。

言葉のない重度知的障害の人の苦しみをひろう技術、研究。

(チャーリー)

あわせておすすめ:

無理なく使える、小さな支えになるかもしれません。

たーとるうぃずのメモ帳カバー


たーとるうぃず発達障害ニュースを支援する。

たーとるうぃずを「いいね!」をする。フォローする。

その他の最新の記事はこちらから

【ニュース記事での「生成AI画像」の利用について】
「研究内容や体験談をわかりやすく伝える」ための概念イラストや雰囲気イラストとして利用しています。事実報道の写真代替、「本物の写真」かのように見せる利用は一切しておりません。


福祉作業所で障害のある方々がひとつひとつ、心をこめて作り上げた良質なハンドメイド・手作りの品物をご紹介します。発達障害の関連ニュースや発達障害の子どもの4コマ漫画も。
気に入ったものはそのままamazonで簡単にご購入頂けます。

商品を作られた障害のある方がたーとるうぃずやAmazonに商品が掲載されたことで喜ばれている、売れたことを聞いて涙を流されていたと施設の方からご連絡を頂きました。

ご購入された方からは本当に気に入っているとご連絡を頂きました。ニュースや4コマ漫画を見て元気が出たとご連絡を頂きました。たーとるうぃずがますます多くの方に喜ばれるしくみになることを願っています。


NPO法人Next-Creation様からコメント

「たーとるうぃず様で販売して頂いてからは全国各地より注文が入るようになりました。障がい者手帳カバーは販売累計1000個を超える人気商品となりました。製品が売れることでご利用者の工賃 UP にもつながっています。ご利用者のみんなもとても喜んでおります」

テキストのコピーはできません。