この記事が含む Q&A
- 感覚のつらさは「外の窓が弱く、内側の編集室が強く働く」バランスの乱れと関係しているのですか?
- はい。外の刺激を受け取る窓の機能低下と内側の編集室の過剰な活動が組み合わさることでつらさが生じやすくなると説明されています。
- 研究は、どんな脳の特徴を組み合わせて感覚のつらさを判別できると示していますか?
- 外向きの窓の弱さ、内向きの気持ち・注意の強さ、白質の状態を組み合わせると高い精度で分類できると報告されています。
- 感覚のつらさを軽減するためにはどんな支援が効果的とされていますか?
- 刺激の少ない環境づくり、見通しの持てる状況づくり、安心できる場所を整えることが有効とされています。
子どもが日常の中で見せる何気ないしぐさの裏には、本人の「感じ方」がいつも静かに働いています。
光のまぶしさに思わず目をつぶることもあれば、服のタグがチクチクして着替えをいやがることもあります。
掃除機の音に驚いて泣き出してしまう子もいます。
大人にとっては何でもない刺激が、その子にとっては大きな負担になることがあります。
この“感じ方の違い”は、その子の気質や性格ではなく、脳が刺激をどう受け取り、どう処理するかという「仕組み」に深く関係しています。
今回、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校とCortica Health Care の研究チームは、この「感覚のつらさ」を抱える子どもの脳がどのように世界をとらえているのかを調べました。
対象となったのは、8〜12歳のニューロダイバーシティの子ども83名です。
研究チームは、子どもの脳の動きを細かく映し出す方法を使い、「外から入ってくる刺激」と「内側の気持ちや注意」を扱う脳の働きを比べました。
脳を家にたとえてみると、その働きが少し見やすくなります。
外の世界を感じ取る部分は「窓」の役割をします。
窓を開ければ光や風が入ってきます。
その一方で、内側で考えたり気持ちを整えたりする部分は、家の中で動きを調整する「編集室」のような役割を持ちます。
本来なら、窓と編集室がちょうどよいバランスで協力しあって、家の中は落ち着いた状態になります。
ところが、感覚のつらさを抱える子どもたちの脳では、この窓と編集室のバランスが崩れていました。
研究でわかったことの一つは、外の刺激を受け取る窓がうまく機能しておらず、入ってくる情報の処理が弱くなっているということです。
外の情報を十分に受け止められないと、そのぶん、編集室は自分の内側で起きていることに強く注意を向けるようになります。
すると、気持ちや考えが大きく揺れやすくなったり、急に疲れやすくなったりします。

研究チームが脳のつながりを調べたところ、離れた場所同士のつながりが弱くなっていることもわかりました。
これは、家の中の部屋どうしをつなぐ廊下が細くなり、情報がスムーズに行き来しにくい状態に似ています。
とくに、光や形を受け取る部分と、考える部分のつながりが弱くなっていたため、刺激を見た後に「これは大丈夫なものだ」と判断するまでの流れが乱れやすくなっていました。
近い場所同士の働きを見ると、さらに興味深いことがわかりました。
外の刺激を処理する部分では活動が弱く、一方で内側の気持ちや注意に関わる部分では活動が強くなっていたのです。
まるで、外の窓がしっかり開いていないため、家の中の編集室が慌ただしく動き回っているような状態です。
これが積み重なると、子どもは「なんだかよくわからないけど落ち着かない」「急にしんどくなる」といった状態になりやすくなります。
一方で、感覚のつらさがない子どもでは、窓は適度に開き、編集室は落ち着いて作業をしていました。
つまり、外向きと内向きの脳の働きが、きれいにバランスを取っていたということです。
研究チームは、この「外が弱く、内が強い」という逆転したバランスこそ、感覚のつらさを抱える子どもの特徴だと考えています。

さらに研究では、子どもたちのふだんの気持ちの安定度にも注目しました。
気持ちの切り替えが得意なタイプと、揺れやすいタイプに分類し、それぞれの脳の働きを比べたのです。
すると、気持ちが比較的安定しているタイプの子どもでは、感覚のつらさがあるかどうかで脳のバランスがはっきり分かれていました。
一方、気持ちが揺れやすいタイプでは、この違いが別の形で現れていました。
これは、感覚の受け取り方と気持ちの動きが脳の中で密接に結びついていることを示しています。
脳の形そのものに大きな差はありませんでしたが、情報の通り道である白質の状態には微細な違いがありました。
白質の中の「道」が細くなったり、曲がりくねったりしている部分が見られました。
これは、脳の中で情報がどう流れるかが、感覚のつらさと関係している可能性を示します。
家の中で、メッセージを運ぶ廊下が狭かったり遠回りになったりすると、全体の動きにも影響します。
それと同じように、脳の細い“通り道”の変化が、子どもの行動や気持ちに影響を与えるかもしれません。
研究チームは、脳のさまざまな情報を組み合わせて、子どもが感覚のつらさを持っているかどうかを予測できるかを調べました。
その結果、外向き・内向きの働き方や白質の状態などを合わせると、高い精度で分類できました。
これは、今後の理解や支援に役立つ可能性があります。

この研究が伝えているもっとも大切なことは、感覚のつらさが「刺激に弱い」という単純な話ではなく、脳全体がどんなバランスで動いているのかという深い部分とつながっているという点です。
窓が開きにくいと編集室が忙しくなるように、外からの刺激にうまく向き合えないと、内側の気持ちや考えに大きな負担がかかり、それが日常生活ににじみ出てしまうのです。
だからこそ、感覚がつらい子どもには、刺激の少ない環境を整えたり、見通しの持てる状況にしたり、安心できる場所をつくったりすることが重要になります。
「がんばらせる」のではなく、「脳が落ち着ける条件を整える」ことが、子どもの力をじゅうぶんに引き出す土台になるのです。
感覚のつらさは、子どもがどのような世界を感じているのかを理解する大切な手がかりです。
今回の研究は、その子がどんなふうに外の世界と向き合い、どんなふうに自分の中を整えようとしているのかを知るための、新しい“地図”のような役割を果たしています。
子どもの困りごとの背景には、目には見えない脳のバランスの違いがあります。
その理解が広がることで、子どもが安心して自分らしく過ごせる時間が、少しずつ増えていくのだと思います。
(出典:Journal of Neurodevelopmental Disorders DOI: 10.1186/s11689-025-09656-y)(画像:たーとるうぃず)
外からの情報 と 内側の思考や感情 これらのアンバランスが感覚に関わる問題の発生メカニズムである。
かかえている困難を軽減することにつなげてほしいと願います。
(チャーリー)




























