この記事が含む Q&A
- 帝王切開と ADHD には関連があるとされているのですか?
- 関連が見られる可能性は指摘されていますが、因果関係を断定しているわけではなく、多くの研究を統合した結果としての結論です。
- 研究はどのような方法で行われたのですか?
- 過去の研究を幅広く収集・選別し、出産方法と ADHD の関係を2つの方法で分析、DSM-IV/ICD-10 などの診断基準と地域を多様に用いて調整しています。
- 出生のときの出産方法だけで ADHD が決まるのでしょうか?
- いいえ、遺伝や成育環境など他の要因と複合的に関与する可能性を示すにとどまり、決定的な原因とは見なされていません。
子どもがどのように生まれたのかという最初の出来事が、その後の発達と何か関係しているのか。
この問いは、長いあいだ関心を集めてきましたが、単純な答えが出るものではありません。
今回紹介するのは、北京中医薬大学を中心とする研究組織によって行われた、大規模な研究のまとめです。
この研究では、帝王切開で生まれた子どもとADHDとのあいだに、どのような関係が報告されてきたのかを、これまでに発表された多くの研究を集めて整理しています。
ADHDは、注意を保つことが難しい、多動性や衝動性が目立つといった特徴をもつ神経発達の特性です。
遺伝の影響が大きいことはよく知られていますが、それだけで説明できるわけではなく、妊娠中や生まれる前後の環境も関係している可能性が指摘されてきました。
研究チームは、英語と中国語の複数の学術データベースを用いて、出産方法とADHDの関係を調べた過去の研究を幅広く集めました。
その中から、ADHDの診断基準が明確で、統計的な数値を取り出せる研究だけを慎重に選んでいます。
最終的に分析の対象となったのは、14本の観察研究です。
これらの研究は、大きく二つの調べ方に分かれていました。

一つ目は、すでにADHDと診断された子どもと、診断されていない子どもを集めて、過去の出産方法をさかのぼって比べる調べ方です。
このタイプの研究では、「どのように生まれたのか」という過去の情報に着目し、両者のあいだに違いがあるかどうかを調べます。
もう一つは、生まれたときの出産方法ごとに子どもたちを分け、その後の成長を何年にもわたって追いかける調べ方です。
こちらでは、生まれた時点からの経過を見守りながら、将来ADHDと診断される割合に差があるかどうかを調べています。
これらの研究は、アジア、ヨーロッパ、北米、オセアニアなど、複数の地域で行われていました。
ADHDの診断には、DSM-IVやICD-10といった国際的に用いられている基準が使われています。
研究チームは、それぞれの研究で報告されている結果を統合し、全体としてどのような傾向が見られるのかを計算しました。
この際、母親の年齢、子どもの性別、妊娠週数、妊娠中の喫煙や飲酒など、影響しうる要因が可能な限り調整された数値が用いられています。

まず、過去をさかのぼって比べる調べ方をまとめた分析では、帝王切開で生まれた子どもは、経腟分娩で生まれた子どもに比べて、ADHDと診断される割合がやや高い傾向が示されました。
次に、生まれてからの経過を長く追いかける調べ方だけを集めて分析した場合でも、同じ方向の結果が得られました。
増加の程度はごく小さいものの、統計的には意味のある差が確認されています。
研究者たちは、これらの結果をもとに、帝王切開がADHDを引き起こすと断定しているわけではありません。
あくまで、「多くの研究をまとめると、両者のあいだに一定の関連が見られる」という位置づけです。
さらに研究では、予定された帝王切開と、分娩中の判断で行われる帝王切開の違いについても調べられています。
分析の結果、どちらのタイプでも、ADHDとの関連の強さに大きな差は見られませんでした。
このことから研究者たちは、「手術が予定かどうかという違いだけでは、結果を説明できない可能性がある」と述べています。

論文では、こうした関連がなぜ報告されているのかについて、これまでの研究をもとにいくつかの考え方が紹介されています。
一つは、出生時のホルモン環境です。
経腟分娩では、出産の過程で強い刺激が加わり、コルチゾールやオキシトシンといったホルモンが多く分泌されます。
これらは、新生児のストレスへの反応や脳の発達に関わっていると考えられています。
帝王切開では、こうした生理的な過程の一部が省略されるため、出生直後のホルモン環境が異なる可能性があります。
ただし、これが人間の発達にどの程度影響するのかについては、まだ十分な結論は出ていません。
もう一つの視点として挙げられているのが、腸内細菌の形成です。
経腟分娩では、母親の体に由来する細菌に触れることで、赤ちゃんの腸内環境が形づくられます。
帝王切開では、この初期の過程が異なる可能性があり、それが免疫や脳の発達と関係しているのではないか、という仮説が紹介されています。
ただし、これらはいずれも「考えられている可能性」であり、今回の研究自体が直接その仕組みを確かめたわけではありません。

研究者たちは、この研究の限界についても率直に述べています。
今回まとめられた研究はいずれも観察に基づくものであり、遺伝や家庭環境など、すべての要因を完全に取り除くことはできません。
また、研究ごとに診断方法や追跡期間が異なるため、結果にばらつきがあることも指摘されています。
そのうえで、この研究は、医療上必要な帝王切開を否定するものではないと明確にしています。
命を守るために行われる帝王切開は、欠かせない医療行為です。
一方で、医学的な必要性がはっきりしない場合には、長期的な視点から出産方法を考える余地があるかもしれない、という慎重な示唆が述べられています。
この論文が伝えているのは、「生まれ方がすべてを決める」という単純な話ではありません。
遺伝や成長環境など多くの要素が重なり合う中で、出生時の条件も、その一部として関係している可能性がある、という静かな整理です。
ADHDについての理解は、原因を一つに求める考え方から、複数の背景を重ねて捉える視点へと少しずつ移りつつあります。
今回の研究は、その流れの中で、人生の最初の出来事を丁寧に見つめ直そうとした試みの一つだと言えるのかもしれません。
(出典:PeerJ DOI: 10.7717/peerj.20603)(画像:たーとるうぃず)
早期診断につなげられる、関係性を示した研究です。
原因ではありません。
この研究は、医療上必要な帝王切開を否定するものではないと明確にしています。
命を守るために行われる帝王切開は、欠かせない医療行為です。
(チャーリー)





























