
この記事が含む Q&A
- 脳のつながりの違いが自閉症の特徴に関係しているのでしょうか?
- はい、脳のつながりが自閉症の特徴や症状に関係していると考えられています。
- 新しい「グラフ信号処理」技術は自閉症の診断にどれくらい役立ちますか?
- この技術は98.8%の高い正確さで自閉症を識別できると報告されています。
- 脳の「スペクトルエントロピー」という指標は何を表しているのですか?
- それは脳の活動の規則性や混乱度を示し、自閉症の人の脳の状態を理解する手がかりとなります。
自閉症スペクトラム障害(ASD、自閉症)は、人と話したり遊んだりするのが苦手だったり、特定のことにとても強いこだわりがあったりする特徴を持つ、発達の障害です。
この障害は脳の中で情報がうまくやりとりされないことが原因だと考えられています。
脳は、いろいろな部分が協力して動いています。
ある場所は「見ること」を担当し、別の場所は「話すこと」や「考えること」を担当しています。
これらがうまく連携していると、私たちはスムーズに行動できます。
でも、自閉症がある人では、脳の一部と別の部分のつながり方が少し違うために、うまく連携が取れなくなることがあるのです。
これまで、自閉症の人の脳の特徴を調べる方法はいろいろありましたが、それらの方法では細かい変化や動きを正確にとらえることが難しかったため、自閉症の詳しい原因や特徴がわからないままでした。
そこで中国にある深セン大学の研究チームは、「グラフ信号処理(GSP)」という新しい方法を使って、自閉症の人の脳の特徴をもっと詳しく調べることにしました。
「グラフ信号処理」とは、脳をわかりやすく図にして調べる方法です。
まず、脳のいろいろな部分を点(ノード)として表します。そして、その点と点がどのようにつながっているかを線(エッジ)で表します。
この図を見れば、脳のどこがよく働いていて、どことどこがつながっているのかを簡単に知ることができます。
さらに研究チームは、この図を使って脳の動きを音楽のように周波数(波のようなリズム)で表す「グラフ・フーリエ変換」という方法も使いました。これは、脳がどのようなパターンで動いているかをもっと細かく知るための方法です。
研究チームは、この方法を使って、「スペクトルエントロピー」という指標を見つけました。
これは脳の動きがどれだけ規則的か、または乱れているかを表すもので、自閉症の人ではこの値が高く、脳の中が少し混乱しているような状態になっていることがわかりました。
この研究では、脳の活動を調べる2種類の装置を使いました。
一つは「fMRI」という機械で、脳のどの部分が活発に動いているかを映像として細かく見られます。
もう一つは「脳波計(EEG)」というもので、脳がどのように電気信号を出しているかを細かく見ることができます。
この二つを組み合わせて調べることで、脳がどう働いているのかを、時間的にも空間的にも正確に見ることができました。
研究チームは、自閉症の人とそうでない人、合わせて80人の脳を調べ、この新しい方法がどれくらい正確に自閉症を見分けられるかテストしました。
その結果、98.8%という高い正確さで、自閉症の人とそうでない人を区別できることがわかりました。
とくに重要だったのが、さきほどの「スペクトルエントロピー」という指標です。
この指標がなければ、正確さが大きく下がってしまうこともわかりました。
つまり、この「脳の混乱度合い」を調べることが、自閉症の人の脳を理解するための大事なカギだったのです。
この研究の重要なところは、今まで自閉症を診断するには、専門家がその人の行動を見て判断してたのを変えられる可能性があることです。
でもこの方法だと、人によって判断が違ったり、正確な診断が難しかったりすることがあります。
この新しい方法で脳を調べることができれば、自閉症をもっと早く正確に診断でき、どんなサポートが必要かをすぐに決めることができます。
研究チームは、今回の研究がさらに進めば、自閉症の人がどんな特徴を持っていて、どんな困りごとをかかえているのか、もっと詳しくわかるようになると言っています。
そのおかげで、自閉症の人がより良く生活できるようになるための新しい治療法や支援方法が見つかる可能性があります。
脳の中のつながりを詳しく知ることが、自閉症を理解して、より良い支援をするための第一歩になるはずです。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
診断する人に左右されない、客観的な診断を実現する、身体的な特徴の発見が期待されています。
確かなそれが見つかれば、早期診断、早期支援がますます実現できることになります。
(チャーリー)