
この記事が含む Q&A
- ADHDの「橋渡し症状」とは何ですか?
- ADHDと精神的健康の悪化をつなぐ重要な症状群のことです。
- どのようにして「自分自身への思いやり」がADHDの症状改善に役立ちますか?
- 「橋渡し症状」を軽減し、ADHDの問題を緩和する効果があります。
- 子ども時代の「反抗・挑戦的行動」が将来のADHDにどのように関係しますか?
- 早期に「自分への思いやり」を促す支援が必要になる兆しとされます。
注意欠如・多動症(ADHD)は、「不注意」や「多動・衝動性」といった症状が子どものころから大人まで続く神経発達症のひとつです。
「不注意」は集中力を保つことが難しいこと、「多動・衝動性」は落ち着きがなく衝動的な行動をすることを意味します。
大学生になると、授業が難しくなったり、人間関係が複雑になったりして、ADHDの症状をもつ人は、特に多くのストレスを抱えやすくなります。
その結果、成績が落ちたり、人とうまく付き合えなくなったりして自信を失い、不安や孤立感、自分を責める気持ちが強くなり、精神的な健康が悪化しやすくなります。
こうしたADHDの問題を改善する方法として注目されているのが、「自分自身への思いやり」(セルフコンパッション)という考え方です。
「自分自身への思いやり」とは、失敗してしまったり、辛いことがあったりしたときに、自分を過度に責めず、優しく接する心の持ち方です。
これまでの研究でも、「自分自身への思いやり」が高まると、不安やうつが軽くなり、精神的な健康が改善する可能性が報告されています。
しかし、これまでは「自分自身への思いやり」が、具体的にどういう仕組みでADHDの問題を改善するのか、はっきりしていませんでした。
そのため、どのように支援をしたら効果的なのかがわからない状況でした。
こうした課題に取り組んだのが、中国の陸軍軍医大学を中心とする研究チームです。
研究チームは2024年に、重慶市内にある4つの大学に通う18歳〜24歳の大学生948人を対象に調査を行いました。
参加した大学生は、ADHD症状を調べるための「成人ADHD自己記入式評価尺度(ASRS)」や「ウエンダー・ユタ評価尺度(WURS)」、性格特性を見るための「中国版ビッグファイブ性格簡易尺度(CBF-PI-B)」、自分自身への思いやりを測る「セルフコンパッション尺度(SCS)」、精神的健康を測る「人生満足度尺度(SWLS)」という質問票に答えました。
研究チームは、このデータを「ネットワーク分析」という方法で分析しました。
「ネットワーク分析」とは、それぞれの症状や特性がどのようにつながっているのかを調べる方法です。
その分析から、ADHDの問題を改善するために重要な「橋渡し症状(ブリッジ症状)」が見つかりました。
「橋渡し症状」とは、本来は別々のグループに分類されている症状や性格特性をつなぐ役割をする症状のことです。
今回見つかった橋渡し症状は、「神経症傾向」「不注意」「過同一化(自分の失敗を重く考えすぎること)」「自己批判(自分を強く責めること)」「反抗・挑戦的行動」「孤立感」の6つでした。
これらは、ADHDの症状と精神的健康の悪化をつなぐ重要な症状だということが明らかになりました。
とくに重要だったのが「神経症傾向」です。
「神経症傾向」とは、不安や抑うつが強く、自分自身を責めたり否定したりする気持ちが強いことです。
この神経症傾向が強いと、「自分自身への思いやり」が低くなり、その結果、不注意、自己批判、孤立感などの症状が強くなり、ADHDの問題がさらに悪化するという悪循環が生まれます。
ここで、簡単に整理してみましょう。
ADHDの症状があると「集中できない」「落ち着けない」などの問題が起こります。
こうした問題が続くと、「不安」「孤立感」「自分を責める気持ち」が強くなります。
この「不安」「孤立感」「自分を責める気持ち」が、今回の研究で明らかになった「橋渡し症状」です。
そして、この「橋渡し症状」が強くなると、さらにADHDの問題を悪化させることになります。
この悪循環を止めるために大切なのが「自分自身への思いやり」です。
「自分自身への思いやり」を高めると、「橋渡し症状」(不安、孤立感、自分を責める気持ち)が軽くなります。
その結果、ADHDの症状も改善されるという良い流れが生まれます。
つまり、
「自分自身への思いやり」を高める →「橋渡し症状」が軽減する → ADHDの症状が改善する
という順序でADHDの問題が改善するということが、この研究によって示されました。
この研究がとくに重要だったのは、漠然と「自分を大切にしましょう」と伝えるだけではなく、具体的に「橋渡し症状」を改善することがADHDの問題を効果的に減らす道筋であることをはっきり示したからです。
また、幼少期に見られる「反抗・挑戦的行動」も、大人になってからのADHD症状を予測する重要な橋渡し症状だと分かりました。
そのため、子どもの頃にこうした行動が見られる場合には、早期に「自分自身への思いやり」を高める支援を行うことが、将来のADHD症状や精神的な問題を軽減するために重要になるでしょう。
今回の研究は中国の大学生を対象としたものであるため、文化や地域によって異なる可能性があり、さらに詳しい研究が必要です。
しかし、この研究結果は、ADHD症状をもつ若い人たちの具体的で効果的な支援方法を考える上で、とても重要な一歩となりました。
(出典:BMC Psychology)(画像:たーとるうぃず)
つまり、一言にすると、
「自分自身を責めたり否定したりする気持ち」を減らすことがもっとも効率よく、ADHDによる困難を減らす。
です。
ご自分を責めすぎないようにしてください。
(チャーリー)