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自閉症やADHDの子に安心の場を。VRでの多感覚環境の可能性

time 2025/09/22

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自閉症やADHDの子に安心の場を。VRでの多感覚環境の可能性

この記事が含む Q&A

VR版マルチセンサリー環境は、設備や広い部屋がなくても支援の場を作れる可能性はあるのでしょうか?
はい、場所を選ばず個別調整が可能な点が評価され、支援に役立つと期待されています。
専門職の受容には「役に立つ」と感じることが最も影響力が大きいと示されたのですか?
はい、「役に立つ」と感じる人ほど使ってみたい・実際に使う意欲が高まり、使いやすさの影響は相対的に小さい傾向です。
VRマルチセンサリー環境を実際に導入する際の重要な設計ポイントは何ですか?
感覚のカスタマイズ・感覚の質・直感的操作・機器配慮・利用者特性と支援者関与の五点が挙げられ、短時間利用と安全な関与が特に重視されています。

バーチャルリアリティという言葉を聞くと、多くの人はゲームや映像体験を思い浮かべるかもしれません。
専用のゴーグルをつけると、まるで自分がその世界の中に入り込んだように感じることができる技術です。
けれども、最近はこの技術が、遊びだけではなく、発達に特性のある子どもや大人の支援に役立てられないかと注目されています。

アメリカのオクラホマ大学の研究チームは、自閉症やADHD、知的障害、学習障害といった神経発達症のある人たちを支援するために、バーチャルリアリティを応用して「マルチセンサリー環境(MSE)」を再現する試みを行いました。

マルチセンサリー環境とは、日本語では「多感覚環境」とも呼ばれるもので、
光や音、色、映像などを組み合わせた特別な空間を指します。
もともとは「スヌーズレン」としてヨーロッパで発展してきた考え方で、落ち着きたいときや、気持ちを高めたいときに、それぞれに合った感覚刺激を体験できる場所です。
柔らかい光に包まれたり、静かな音楽や心地よい映像を感じたりすることで、不安を和らげたり、集中を促したりできると言われています。
しかし、現実のマルチセンサリー環境をつくるには、大きな部屋や高価な機材が必要で、学校や家庭、福祉施設で気軽に用意するのは難しいのが現状です。

そこで研究チームが考えたのが、バーチャルリアリティの世界でマルチセンサリー環境をつくってしまうことでした。
ゴーグルを装着するだけで、どこでも光や音、色を組み合わせた空間に入ることができれば、設備や広い部屋がなくても実現できるからです。

この新しい取り組みが本当に役立つのかを確かめるために、研究チームは教育や支援の現場で働く専門職40人に協力してもらい、調査を行いました。
参加したのは、作業療法士、特別支援教育の教員、支援施設の運営スタッフ、応用行動分析を実践している人などです。
平均で約9年の経験を持つ人たちで、日々発達特性のある子どもや大人に関わっている人ばかりでした。

研究で用いられた枠組みは「テクノロジー受容モデル(TAM)」と呼ばれるものです。
これは「新しい技術が人にどれくらい受け入れられるか」を調べるために、世界中で使われている方法です。
具体的には、「役に立ちそうか」「使いやすそうか」「使ってみたいという気持ちになるか」「実際に使うつもりになるか」という四つの視点を数値で評価します。
研究チームは、このモデルをVR版マルチセンサリー環境にあてはめ、専門職の人たちがどう感じるのかを調べました。

結果として、「役に立ちそうだ」と感じた人ほど、「使ってみたい」「実際に使うと思う」と答えていました。
つまり、多少使いづらさがあったとしても、支援に本当に役立つと感じられれば、導入への意欲は高まるということです。
「使いやすさ」そのものの影響は意外に小さく、「便利ならば少し難しくても慣れればいい」と考える専門職が多かったのです。
全体としては「使いたい」という気持ちや「使う意図」は高く評価され、「役に立つ」という見方も強く示されました。
やや低めだったのは「使いやすさ」ですが、それでも決して低い点数ではありませんでした。

職種ごとにみると、とくに特別支援教育の教員と作業療法士が高い評価を示しました。
授業やリハビリの場面で、感覚を調整できる空間やツールは役立つと直感的に理解しやすいからだと考えられます。
実際、学校の中で落ち着ける部屋を確保するのは難しく、VRならそれを補えるかもしれないと期待されたのです。

研究チームはさらに、VR版マルチセンサリー環境が生活の満足感にどう影響するかも検討しました。
使ったのは「パーソナル・ウェルビーイング指標(PWI-ID)」という質問票です。
これは本来、知的障害のある人本人が答えるものですが、今回はあくまで専門職が「もし利用者が体験したらどう感じるか」を予想する形で回答しました。

代理評価には限界があると研究チームも強調していますが、それでも「生活全体」「健康」「学び」「家の外での活動」「将来の見通し」など、複数の領域でプラスの効果が予想されました。
とくに「生活全体」は高く、安心感や安定感を得られるのではないかと考えられました。

一方で、16名の参加者に決まった質問と自由な会話を組み合わせた聞き取りを行い、実際に導入するための工夫や条件も詳しく聞き取りました。
そこから浮かび上がったのは五つの大事な視点です。

まず一つ目は「感覚のカスタマイズ」です。
人によって落ち着く刺激や苦手な刺激は異なります。
光の色や明るさ、音の種類や音量を調整できる仕組みや、目的に応じて選べるプログラムが必要だとされました。

二つ目は「感覚の質」です。
映像や音の心地よさ、光のきらめきなど、現実の多感覚室にできるだけ近づける工夫が求められました。

三つ目は「直感的な操作」です。
大きくてわかりやすいボタン、押したらすぐに反応が返る仕組みなど、使う人に不安を与えない工夫が重要です。

四つ目は「機器そのものの配慮」です。
ヘッドセットの重さや締め付け感は感覚に敏感な人には負担になります。
軽いゴーグルや耳をふさがない音響、あるいはヘッドセットを使わず大画面に投影する方法も検討されました。
さらに、酔いやすさに配慮して短時間の利用にとどめる工夫も必要です。

五つ目は「利用者の特性と支援者の関与」です。
ひとりひとりの特性に合わせて段階的に使い方を設計し、支援者が安全を見守りながら関わることが大切だとされました。

このようにVRを使うことのメリットは「アクセスのしやすさ」と「個別化のしやすさ」にあります。

現実の多感覚室は設置や維持が大変ですが、VRなら場所を選ばずに導入できます。
また、個々の特性に合わせて光や音をすぐに調整できる点も強みです。
感覚に敏感な人や、逆に感覚が鈍い人に合わせた支援に適していると考えられます。

ただし、課題もあります。
実際の触覚や体の動きは、まだVRでは十分に再現できません。
床の感触や柔らかさなどは現実ならではの体験です。
また、ゴーグルの装着感や酔いやすさは避けられない問題であり、利用時間を短く区切るなどの工夫が欠かせません。

さらに今回の研究は、人数が40名と限られており、当事者本人の評価ではなく専門職による予想であったことも、今後の課題です。実際の利用者自身の声を中心に、長期的な効果を確かめていく必要があります。

導入の実際的な手順も示されました。
最初に苦手な刺激を確認し、音や光を控えめに設定します。
短い時間から始め、反応を見ながら調整していきます。
落ち着くとき用と元気を出したいとき用の二つのパターンをあらかじめ用意しておくと便利です。
操作はシンプルに、大きなボタンと分かりやすい反応に絞り、複雑なメニューは隠しておきます。
支援者は休憩のタイミングや中止の条件を事前に決めておき、安心して使える環境を整えることが大切です。

オクラホマ大学の研究は、バーチャルリアリティが「設備や空間の制約で多感覚室を設けにくい場所」にとって、現実的な代わりや補助になり得ることを示しました。
専門職の多くは「役に立つならぜひ使いたい」と強い意欲を持っています。

しかし、使う人の感覚の多様さに丁寧に合わせる工夫や、装着感・酔いへの配慮、支援者の関与は欠かせません。
バーチャルリアリティは魔法の道具ではありませんが、正しく工夫すれば、安心できる時間を増やし、日常の不快を減らす助けになる可能性があります。
今後は当事者本人の声を中心に据え、現場の工夫と技術を行き来させながら、安全で心地よい形に育てていくことが求められています。

(出典:Virtual Reality DOI: 10.1007/s10055-025-01233-x)(画像:たーとるうぃず)

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