
この記事が含む Q&A
- ACSM基準を守った運動は自閉症の子どもの運動技能や行動の改善により効果が高いとされていますか?
- はい、ACSM基準を遵守したプログラムは技能の安定的な向上や落ち着き・柔軟さの改善がよりはっきり見られます。
- 具体的に家庭や学校で推奨される運動の頻度や時間は何ですか?
- 有酸素は週4–5日、1回20–30分、筋力は週2–3回、柔軟性はほぼ毎日短時間のストレッチ、年齢に応じて無理なく調整します。
- 学習や言語の改善には運動だけで直接的な効果はありますか?
- 運動だけで直接的な言語能力の改善は確認されず、言語支援と組み合わせることが必要です。
子どもにとって「体を動かすこと」は遊びであり、学びであり、心を整える時間でもあります。
けれど自閉症の子どもにとっては、体の動きがぎこちなかったり、集団での運動が難しかったりすることがあります。
そのため「運動をどう取り入れるか」は家庭や学校、療育の現場で常に話題になるテーマです。
今回、中国の華中師範大学 教育学院 特殊教育学部を中心とする研究チームが、世界中の研究をまとめた大規模な調査を行い、運動がどのように役立つのか、そして「どのような運動の仕方がより効果的なのか」を詳しく検証しました。
この研究は、これまでに行われた無作為化比較試験を集めて分析したもので、対象になったのは27件の研究、合計で1,000人を超える自閉症の子どもたちでした。
無作為化比較試験とは、参加者をランダムに分けて「運動を行うグループ」と「行わないグループ」を比較する方法で、医学や教育分野で最も信頼度の高い方法の一つです。
分析の対象となった運動はジョギングや水泳、バスケットボール、ヨガ、太極拳、武道など、日常生活の中でも比較的取り入れやすいものが多く含まれていました。
研究の大きな特徴は、ただ「運動をしたかどうか」ではなく、その運動がどれくらい「基本に沿っていたか」を評価した点です。
ここでいう基本とは「ACSM(アメリカスポーツ医学会)のガイドライン」です。
ACSMガイドラインは世界中の運動やリハビリの専門家が参考にしている基準で、「週に何回くらい」「どれくらいの時間」「どの強さで」といった具体的な目安が示されています。
今回の研究では、この基準をしっかり守っていたプログラムを「高遵守」、あまり守れていなかったものを「低遵守」として比べました。
その結果、まずは体の動かし方に大きな違いが見られました。
運動を行った子どもたちは全体的に運動技能が向上していましたが、とくにACSMの基準に沿った運動を行ったグループはより安定して上達していました。
走る、跳ぶ、投げるといった基本的な動作がスムーズになり、体の使い方が上手になっていたのです。
つまり、ただ好きなように体を動かすよりも、「どれくらい・どんな強さで・どの頻度で」といった基本を押さえたほうが、確実に成果が出やすいということです。
また、行動面でも効果が見られました。
自閉症の子どもには「同じ動きを繰り返す」「気持ちの切り替えが難しい」といった特徴が見られることがあります。
研究では、運動を取り入れることでこうした行動が和らぐ傾向が確認されました。
とくにACSMの基準に沿った運動では、落ち着きや柔軟さの改善がよりはっきりと見られたのです。
これは運動が体だけでなく、心の安定にも影響することを示しています。
社会的なやりとりについては、結果は少し複雑でした。
全体としては大きな変化は確認されませんでしたが、ACSMの基準をきちんと守った運動プログラムでは、友達や周囲との関わりに小さな改善が見られました。
たとえば、チームで協力するバスケットボールや、相手の動きを意識する武道などは、体を動かすだけでなく、自然と相手と関わることを含みます。
そうした活動を繰り返すうちに、社会的なやりとりが少しずつ積み重なっていくのだと考えられます。
一方で、言葉や身振りによるコミュニケーションについては、運動だけで直接的な改善は確認されませんでした。
話す力や非言語的な表現力は、運動と同時に専門的な言語支援を組み合わせることが必要であると研究者たちは指摘しています。
では、ACSMガイドラインに沿った運動とは具体的にどんなものなのでしょうか。
子ども向けに示された目安は次のようなものです。
心肺機能を高める有酸素運動は週4〜5日、1回20〜30分。筋力をきたえる運動は週2〜3回、回数やセットを少しずつ増やす。
柔軟性を保つストレッチはほぼ毎日、短時間でも繰り返す。
もちろん、子どもの年齢や体調に応じて無理のないよう調整することが前提です。
家庭や学校で実際に取り入れるときには、工夫が大切です。
カレンダーやチェックリストを使って「どのくらい」「どんな強さで」「どのくらいの頻度で」を見える形にすると継続しやすくなります。
また、子どもが楽しめる運動を選びつつ、基準を満たすように少しずつ整えていくことが勧められます。
さらに、学校や療育の場で同じ評価方法を使って記録し、家族と共有することで、改善の変化を一緒に確認しながら続けることができます。
もちろん、この研究にも限界があります。
分析に使われた研究の間にはばらつきがあり、結果が完全に一致しているわけではありません。
また、運動の効果を評価する際に、保護者や支援者の主観が入ることも避けられません。
それでも、複数の研究をまとめてもなお「運動は自閉症の子どもの運動技能や行動に良い影響を与える」という結論が揺るがなかったことは重要です。
運動は薬のように即効性があるわけではありませんが、日々の暮らしの中に積み重ねることで、少しずつ確かな効果を生み出していきます。
自閉症の子どもにとって、体を動かすことはただの遊びではなく、心や行動を支える力になります。
そしてその効果を最大限に引き出すには、「どれくらい・どんな強さで・どのくらいの頻度で」を意識することが大切なのです。
親や支援者にとっても、ガイドラインに照らして運動を見える形にすることは、安心と手応えにつながります。
療育の現場でも、学校でも、家庭でも、運動を「なんとなく」ではなく「計画的に」取り入れることが、子どもの未来を大きく支える一歩になるでしょう。
(出典:Frontiers in Child and Adolescent Psychiatry DOI: 10.3389/frcha.2025.1647280)(画像:たーとるうぃず)
運動は良いことに間違いありません。
誰にとっても。
こうして、どれくらいすれば良いのかがわかれば、無理せず効果を得られますね。
(チャーリー)