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ADHDとODDの症状そのものは成人後の収入に直結しない

time 2025/09/13

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

ADHDとODDの症状そのものは成人後の収入に直結しない

この記事が含む Q&A

ADHDやODDの症状が大人の収入に直接影響するか?
直接的な影響は見られず、教育と精神的健康を介した間接的影響が重要とされています。
収入の差が生じる主な経路は何ですか?
学歴の向上機会の減少や併存する精神疾患が主な媒介で、教育を通じた影響が大きいと報告されています。
社会関係資本は収入に影響しますか?
今回のデータでは社会関係資本が収入の仲介因子として確認されませんでした。

注意欠如・多動症(ADHD)や反抗挑戦性障害(ODD)の症状を持つ子どもたちが、その後の大人としての生活でどのような影響を受けるのか。
とくに「収入」との関係は長年注目されてきました。

しかし、単に「症状があると収入が下がる」という単純な説明では、なかなか現実をうまく捉えることができません。

今回、フィンランドの北部で行われた長期的な出生コホート研究が、その背景にある仕組みを詳しく明らかにしました。
この研究を行ったのはフィンランドのオウル大学とオウル大学病院を中心とした研究チームです。

研究者たちは、1986年に生まれた約9,400人の子どもたちを追跡してきた「北フィンランド出生コホート1986(NFBC1986)」を利用しました。
この大規模な研究では、16歳の時点で保護者が記入する質問票を用いてADHDやODDの症状が評価され、その後30歳になった時点での実際の所得が税務当局の記録から確認されています。
つまり、思春期の症状と成人期の経済状況を、十数年にわたって結びつけて調べることができるデータなのです。

分析の方法としては、単に「症状があるかないか」と「収入が高いか低いか」を比べるのではなく、その間に入り込むさまざまな要因を仲介変数として扱う「メディエーション分析」という手法が用いられました。

具体的には、人が将来の仕事や収入を得るうえで基盤となる三つの資本に注目しました。

一つ目は「人的資本」で、主に学歴を指します。
二つ目は「社会関係資本」で、友人や信頼関係の有無といった要素です。
そして三つ目は「健康資本」で、ADHDやODD以外の精神疾患の有無があてはまります。

これらが思春期の症状と大人の収入の間にどのように作用するかを明らかにしようとしたのです。

結果は非常に興味深いものでした。
まず、直接的に「ADHDやODDの症状があると収入が低い」という証拠は見つかりませんでした。

むしろ影響は間接的に現れていました。
たとえば、症状があることによって大学進学が難しくなる、その結果として学歴が低くなり、収入に影響が出るという経路です。
また、症状がある人ほど不安やうつなどの別の精神疾患を併発しやすく、それがさらに収入に響くことも確認されました。

数値で見てみると、男性でADHDとODDの両方の症状がある場合、教育を通じて平均25%、併存する精神疾患を通じて平均18%、合わせて47%もの収入の差が生じると推定されました。

女性の場合はADHDの症状が教育を介して16%の収入減少につながっていました。
一方で、友人関係などの社会関係資本は、今回のデータでは収入を仲介する効果は確認されませんでした。

この結果が示すのは、症状そのものをなくすこと以上に、教育や精神的健康を支える支援が決定的に重要だということです。
つまり、学びの機会を広げたり、精神疾患を早期に発見して適切に対応したりすることが、将来の経済的不利益を減らすうえで大きな意味を持つのです。

研究では、教育資本の代表として大学以上の学歴の有無を扱いましたが、症状を持つ人はコントロール群と比べて高等教育に到達する割合が著しく低いことが明らかになりました。

さらに、職種やホワイトカラーとしての就業割合、実際の職業経験年数でも差が見られました。

健康資本についても、自己申告の健康感や、精神科での診断記録をもとに評価したところ、症状群では不安やうつといった併存症の割合が明確に高く、そのことが収入の低下に結びついていました。
これらは特に男性において強く現れていました。

一方、社会関係資本に関しては、16歳時点で「親友がいるかどうか」という問いに基づいて分析されました。
しかし、収入への間接的な影響は確認できませんでした。
これは、単に「友人の有無」という指標では、現代の複雑な人間関係のあり方やネットワークの質を十分に捉えきれない可能性もあります。
したがって、社会的なつながりが全く意味を持たないということではなく、今回の測定方法では効果が見えなかったと考えられます。

研究はまた、家庭の背景や親の学歴なども調整したうえで結果を導いています。
つまり、症状と収入の差が「家庭環境の違いのせいではないか」という疑問にもしっかり対応しています。
こうした点からも、教育や精神的健康を通じた間接的な影響が確かに存在することが裏付けられています。

この知見は、教育現場や政策にとって大きな意味を持ちます。
たとえば、学校での合理的配慮や学び直しの機会を充実させること、進学や就労の移行期にサポートを厚くすることが、将来の格差を縮める実効的な方法になるかもしれません。
さらに、定期的な精神的健康のスクリーニングを行い、不安や抑うつなどの問題を早期に支援につなげることも重要です。
そうした取り組みが、本人の生活の安定と社会全体の経済的な公平性の両方に寄与することが期待されます。

今回の研究には限界もあります。
たとえば、収入は30歳の時点でのデータであり、より長期的に見た場合にどう変化するかはわかりません。
また、社会関係資本の測定方法が限定的であったことも考慮する必要があります。
それでも、症状と収入の関係を単純な因果関係としてではなく、教育や健康といった仲介要因を通じて捉えた点は大きな前進だといえます。

この研究を通じて見えてきたのは、「症状そのものが未来を決めるわけではない」ということです。
むしろ、教育や健康をどう支えるかによって、大人になったときの生活や経済的安定は大きく変わり得るのです。

つまり、社会がどこに力を注ぐかが重要であり、教育への投資や精神的健康への支援は、発達障害を持つ人々だけでなく社会全体の未来を形づくる基盤となるといえます。

(出典:European Child & Adolescent Psychiatry DOI: 10.1007/s00787-025-02842-2)(画像:たーとるうぃず)

「直接」影響するものではない。

当たり前のことのように思いますが、奮い立たなくてはならないときにも、思い出してください。

ADHDと学業成績の関連、中学3年間で弱まる傾向が明らかに

(チャーリー)


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