この記事が含む Q&A
- ゲーミフィケーションを取り入れた学習アプリは、ADHDの子どもの注意力と学業成績に効果があるのか?
- 8週間の介入後、視覚・聴覚の反応時間が短縮し、読み・書き・算数の成績が向上し、8週間後も改善がほぼ維持されました。
- 研究のデザインはどのようなものか?
- ランダム化比較試験で、同じ学習内容をゲーム要素有りと無しで比較し、1日25-30分×週5日×8週間実施しました。
- 効果の解釈と限界は?
- 即時フィードバックや達成感などが動機づけを高めた可能性がありますが、長期効果や他地域での再現性、個人差の分析は今後の課題です。
ADHDのある子どもたちは、学校生活の中で「集中が続かない」「課題を最後までやりきれない」「授業内容が頭に入りにくい」といった困難を抱えやすいことが、これまで多くの研究で示されてきました。
こうした困難は、本人の努力不足ではなく、注意のコントロールや衝動性といった特性によるものです。
そのため、薬物療法や行動療法など、さまざまな支援が試みられてきましたが、「学力そのもの」を長期的に高める方法については、十分な答えが得られていないのが現状でした。
こうした中で注目されているのが、「学習」と「ゲームの仕組み」を組み合わせた、いわゆるゲーミフィケーションを取り入れた教育アプリです。
ゲーム要素を取り入れることで、子どもの興味ややる気を引き出し、注意を向け続けやすくする効果が期待されています。
ただし、これまでの研究では、短期間の効果にとどまるものが多く、しっかりした比較試験や、効果がどれくらい続くのかを調べたデータは限られていました。
今回紹介する研究は、中国の新疆財経大学に所属する研究チームが行ったもので、ADHDのある子どもを対象に、「ゲーミフィケーションを取り入れた学習アプリ」が、注意力と学業成績にどのような影響を与えるのかを、ランダム化比較試験という厳密な方法で検証しています。
研究に参加したのは、6歳から12歳までのADHDと診断された子ども80人です。
全員が知能指数の範囲も揃えられ、他の発達障害や学習障害は除外されています。
子どもたちは無作為に2つのグループに分けられました。
一方は、即時フィードバックやポイント、レベルアップといったゲーム要素を取り入れた学習アプリを使うグループ、
もう一方は、同じ学習内容を、ゲーム要素のないシンプルなデジタル教材で学ぶグループです。
両方のグループが取り組んだ学習内容は同じで、計算、文章理解、音の処理に関わる課題が含まれていました。
学習時間も揃えられており、1日25分から30分、週5日、8週間続けるという条件でした。
つまり、「何を学んだか」「どれくらい学んだか」は同じで、「ゲーム要素があるかどうか」だけが違う設計になっています。
研究では、学習の前後で、注意力と学業成績が詳しく測定されました。
注意力については、視覚刺激や聴覚刺激にどれくらい素早く反応できるか、そして注意を持続させる力がどれくらい安定しているかが、標準化されたテストを用いて評価されました。
学業成績については、読み、書き、算数のテストが行われています。
さらに、学習終了から8週間後にも再度測定が行われ、効果が維持されているかどうかも調べられました。

その結果は、非常に明確なものでした。
8週間の学習後、ゲーミフィケーションを取り入れたアプリを使った子どもたちは、視覚的な反応、聴覚的な反応、注意の持続のいずれにおいても、反応時間が大きく短縮していました。
これは、注意を向けるスピードや安定性が高まったことを意味します。
一方、ゲーム要素のない教材を使ったグループでは、わずかな改善は見られたものの、その変化は小さなものでした。
学業成績についても同様の傾向が見られました。
ゲーミフィケーションのある学習を行った子どもたちは、読み、書き、算数のすべてで大きな得点の向上を示しました。
とくに算数では、学習前と比べて大幅な伸びが確認されています。対照的に、同じ内容を学んだにもかかわらず、ゲーム要素のないグループでは、成績の伸びは限定的でした。
重要なのは、これらの差が「学習時間の違い」では説明できない点です。
実際に、両グループの学習回数や総学習時間にはほとんど差がありませんでした。
つまり、同じ時間学んでいても、学び方の設計によって、注意力や学習成果に大きな違いが生まれたことになります。
さらに注目すべきなのは、学習終了から8週間後の追跡調査です。
ゲーミフィケーションを取り入れた学習を行った子どもたちは、注意力や学業成績の改善をほぼ維持していました。
短期間で消えてしまう一時的な効果ではなく、一定期間持続する変化が確認されたのです。
一方、対照グループでは、その後の変化はほとんど見られませんでした。
研究チームは、こうした結果の背景として、ゲーミフィケーションがもたらす「即時のフィードバック」「達成感」「段階的な挑戦」といった要素が、注意を引きつけ、学習への動機づけを高めた可能性を指摘しています。
ADHDのある子どもは、注意を維持すること自体に負担がかかりやすいため、学習の中に「楽しい」「わかりやすい」「次に進みたくなる」仕組みがあることが、結果として学力の向上につながったと考えられます。

一方で、研究チームはこの研究の限界についても率直に述べています。
追跡期間は8週間と比較的短く、半年や1年といった長期的な影響については今後の検討が必要です。
また、参加者は特定の地域・文化的背景に限られているため、他の国や教育環境でも同じ効果が得られるかどうかは、さらなる研究が求められます。
ADHDの特性にも個人差があるため、どのタイプの子どもにとくに効果が高いのかを詳しく調べることも、今後の課題として挙げられています。
それでも今回の研究は、「ADHDのある子どもにとって、学びやすい環境とは何か」を考える上で、非常に重要な示唆を与えています。
努力を求めるだけではなく、注意の特性に合った形で学習環境を設計すること。
その一つの具体的な方法として、よく考えられたゲーミフィケーションが、大きな可能性を持っていることを、この研究はデータで示しました。
ADHDのある子どもたちが、自分は「できない」のではなく、「やり方が合っていなかっただけ」と感じられるような学習環境が広がっていくこと。
そのための一つの確かな手がかりを、この研究は私たちに示していると言えるでしょう。
(出典:Frontiers in Education DOI: 10.3389/feduc.2025.1668260)(画像:たーとるうぃず)
楽しければ、自発的に集中力をもって長い時間でも取り組め、すばらしい結果につながります。
ますます「ゲーム」がいろいろなところでうまく使われることを期待しています。
(チャーリー)




























