この記事が含む Q&A
- ソーシャル・プロブレム・ソルビングとは何を目的とする支援ですか?
- 自閉症の子どもが直面する場面で、何が起きているかを整理し、相手の気持ちを考え、複数の行動案を検討して一つを選ぶ一連の思考過程を扱う支援です。
- 研究の結果、どのような効果が報告されていますか?
- 日常的な環境で実施すると、社会的問題解決力や感情理解、対人スキルなどが安定して向上することが示されました。
- 効果が大きい実施条件はありますか?
- 教師が中心となって日常の教室で行われる支援が特に効果的で、実施環境によって差があることが指摘されています。
教室の中では、毎日のように小さな出来事が起きています。
順番を抜かされたように感じたとき、冗談がきつく聞こえたとき、遊びのルールが分からなくなったとき。多くの子どもは、こうした場面で状況を見て、相手の様子を感じ取り、なんとなく「次にどうすればいいか」を選び取っています。
しかし自閉症のある子どもにとって、こうした場面はとても負荷が大きくなりやすいものです。
何が問題なのかが分かりにくかったり、相手の気持ちを推測するのが難しかったり、考えられる選択肢が一つに固定されてしまったりします。
その結果、戸惑ったまま固まってしまったり、強い反応として表に出てしまうこともあります。
こうした困難は、単に「社会性が苦手」という一言で片づけられるものではありません。
背景には、状況を整理し、感情を理解し、行動を選ぶという一連の思考の流れそのものに、負担がかかりやすいという特性があります。
この「考え方の流れ」に焦点を当てた支援として注目されてきたのが、「ソーシャル・プロブレム・ソルビング(社会的問題解決)」です。
ソーシャル・プロブレム・ソルビングとは、社会的な場面で問題が起きたときに、
- 何が起きているのかを整理する
- 相手がどう感じているかを考える
- 考えられる行動をいくつか思い浮かべる
- それぞれの結果を想像する
- その中から一つを選んで行動する
という思考の段階を踏んでいくことを指します。
行動そのものを教えるのではなく、「どう考えればよいか」を扱う点に特徴があります。

この考え方は、感情の理解や実行機能、他者の視点を想像する力など、さまざまな認知や感情の働きと重なっています。
そのため、ソーシャル・プロブレム・ソルビングを支えることが、社会性全体の土台になるのではないかと考えられてきました。
こうした支援が実際にどの程度効果を持つのかを検証するため、中国の華東師範大学 教育学部を中心とした研究チームは、これまでに行われた研究をまとめて分析しました。
研究チームは、1990年から2025年までに発表された論文の中から、自閉症のある4歳から18歳までの子どもを対象に、ソーシャル・プロブレム・ソルビングを含む支援を行い、その効果を定量的に検証している研究を選び出しました。
最終的に19本の研究が対象となり、合計741人の子どもが分析に含まれました。
対象となった支援はさまざまでした。
学校の教室で行われたもの、幼稚園や支援施設で行われたもの、少人数のグループで取り組むもの、個別に進めるものもありました。
支援の期間や頻度にも幅がありましたが、共通していたのは、社会的な問題に直面したときの「考え方」を扱っていた点です。
分析の結果、ソーシャル・プロブレム・ソルビングを含む支援は、子どもたちの社会的問題解決力を確かに高めていました。
問題をどう捉え、どう考え、どう行動を選ぶかという力が、支援を受けていない場合に比べて、安定して向上していたのです。

さらに重要なのは、この効果が特定の条件に限られていなかった点です。
年齢や支援の形式が違っていても、ソーシャル・プロブレム・ソルビングを重視した支援は、全体として一貫した改善を示していました。
考え方のプロセスに働きかけることが、さまざまな場面で共通の意味を持っていたことがうかがえます。
また、この支援は社会的問題解決力だけにとどまらず、関連する力にも影響を与えていました。
他人の表情や感情を読み取る力、計画や切り替えといった実行機能、日常的な対人スキル、相手の立場を想像する力など、社会生活に欠かせない複数の側面で改善が確認されました。
研究チームは、これらの結果について、ソーシャル・プロブレム・ソルビングが「一つのスキル」ではなく、認知・感情・行動をつなぐ中心的な仕組みとして働いている可能性を示していると述べています。
考え方が整理されることで、感情の扱い方や行動の選び方にも変化が生じていたと考えられます。
さらに分析を進めると、支援の効果には実施環境による違いがあることも分かりました。
とくに効果が大きかったのは、学校という日常的な環境の中で、教師が中心となって行う支援でした。
研究者が一時的に関わる支援よりも、毎日子どもと接している教師が関与する支援のほうが、改善の程度が大きかったのです。
教室では、実際の友だち関係やトラブルがすぐに起こります。
その場面で考え方を使い、振り返る機会があることが、学んだ内容を生活の中で使える力へとつなげていた可能性があります。

一方で、研究チームはこの分野の課題も指摘しています。
対象となった研究の多くは高所得国で行われており、文化や教育環境の違いを十分に反映しているとは言えません。
また、評価の多くが教師や保護者による報告に基づいており、客観的な測定が限られていました。
長期的に効果が続くかどうかを検証した研究も少ない状況です。
それでも、このメタ分析は重要な点を明らかにしています。
社会的な困難を「行動の問題」として見るのではなく、「考え方の負荷」として捉え直すことで、支援の方向性が大きく変わる可能性があるという点です。
研究チームは結論として、ソーシャル・プロブレム・ソルビングを重視した支援は、自閉症のある子どもの社会的・感情的な発達を支える有望な枠組みであり、とくに日常生活と結びついた環境で実施されることが重要であると述べています。
教室という現実の場面の中で、考え方を育てることが、子どもたちの社会生活を支える土台になりうると示されています。
(出典:Behavioral Sciences DOI:10.3390/bs15121708)(画像:たーとるうぃず)
どう考えれば良いか?
より詳しい、解像度の高い支援内容のように思えます。
なので、効果があるのでしょう。
(チャーリー)




























