この記事が含む Q&A
- 自閉症の子どもを育てる親にとって、併存状態とはどんなものを指しますか?
- 回答: 不安や睡眠障害、消化器系の不調など、自閉症以外の障害や困難が同時にある状態のことです。
- 媒介仮説とは何を意味しますか?
- 回答: 自閉症の中核症状そのものが直接ストレスを生むのではなく、行動上の困難を介して親のストレスを高めるとする考え方です。
- 支援の焦点はどこに置くべきですか?
- 回答: 中核症状だけでなく併存状態や不安・攻撃性・多動などの行動困難にも目を向け、多職種による包括的支援が重要とされています。
自閉症のある子どもを育てる親は、高いストレスを抱えやすいことが、これまで多くの研究で示されてきました。
その背景として、子どもの自閉症の中核症状そのものが大きな要因だと考えられてきましたが、近年はそれだけでは説明しきれないことも分かってきています。
自閉症のある子どもは、不安、ADHD、知的障害、睡眠の問題、消化器系の不調など、さまざまな併存状態を同時に経験していることが多いと報告されています。
こうした併存状態は、診断を複雑にするだけでなく、子ども本人の生活のしづらさや、親の負担にも大きく影響している可能性があります。
今回紹介する研究は、ニュージーランドのオークランド工科大学によるもので、自閉症のある子どもを育てる親のストレスが、どのような仕組みで高まるのかを、併存状態との関係から詳しく検討したものです。
とくに、「なぜ親のストレスが増えるのか」というメカニズムに焦点を当て、三つの仮説を比較しています。
一つ目は「増幅仮説」です。
これは、併存状態があることで自閉症の中核症状がさらに強まり、その結果として親のストレスが増える、という考え方です。
たとえば、消化器系の不調や睡眠障害があることで、こだわり行動や情緒の不安定さが強くなり、それが親の負担を増やす、というイメージです。
二つ目は「加算仮説」です。
こちらは、併存状態と自閉症の中核症状が、それぞれ独立した負担として積み重なり、合計として親のストレスを高める、という考え方です。
症状同士が影響し合うのではなく、「負担の数が増えるほどストレスも増える」という見方です。
三つ目は「媒介仮説」です。
この仮説では、自閉症の中核症状そのものが直接ストレスを生むのではなく、不安や攻撃性、多動といった行動面の困難が間に入り、それを通して親のストレスが高まると考えます。
つまり、親のストレスを強く左右しているのは、診断名ではなく、日常生活の中で直面する具体的な行動の困難さだ、という考え方です。

研究には、自閉症と診断された子どもを育てる453人の親が参加しました。
親たちは、子どもの自閉症の特性、併存状態の有無と重さ、そして自分自身の育児ストレスについて回答しました。
子どもの年齢は幅広く、幼少期から青年期に近い年代まで含まれています。
分析の結果、まず明らかになったのは、自閉症の中核症状の強さと親のストレスの関係は、思っていたよりも弱いという点でした。
一方で、不安や攻撃的な行動、多動といった行動上の困難や、併存状態の影響は、親のストレスと中程度以上の関連を示していました。
増幅仮説については、明確な支持は得られませんでした。
併存状態があるからといって、自閉症の中核症状が特別に強まり、それが親のストレスを増幅させている、という証拠は見つからなかったのです。
加算仮説については、一部の支持が得られました。
併存状態の数が多いほど、あるいは併存状態が子どもの生活に与える影響が大きいほど、親のストレスが高い傾向は確認されました。
ただし、その場合でも、自閉症の中核症状そのものの影響は統計的に目立たなくなっていました。

最も重要な結果は、媒介仮説に関するものでした。
分析の結果、自閉症の中核症状は、不安や攻撃性といった行動上の困難を通して、親のストレスに影響していることが示されました。
これは完全な媒介ではなく部分的なものでしたが、「行動の困難さ」が親のストレスを説明する大きな要因であることが、はっきりと示されています。
とくに興味深いのは、不安や落ち込みなどの内向的な困難が、親にとって強い心理的負担になっている点です。
外から見えやすい行動だけでなく、子どもの不安や悲しみ、引きこもりといった内面のつらさも、親のストレスを大きく左右していることが示唆されました。
この研究は、育児ストレスを「自閉症だから仕方ないもの」として一括りにするのではなく、どのような困難が、どの経路を通して親に影響しているのかを丁寧に分解しています。
その結果、支援の焦点を診断名だけに当てるのではなく、併存状態や行動面の困難を含めて捉える必要性が浮かび上がってきました。

研究者たちは、こうした結果から、多職種による包括的な支援の重要性を指摘しています。
自閉症の中核症状への支援だけでなく、不安、睡眠、消化器系の問題など、併存状態にも目を向けることで、子ども本人だけでなく、親の負担も軽減できる可能性があると考えられています。
また、この研究は横断的な調査であるため、因果関係を断定することはできません。
それでも、親のストレスと子どもの困難が複雑に絡み合っている現実を、データに基づいて静かに示した点は重要です。
自閉症のある子どもを育てる親のストレスは、決して一つの原因で生じるものではありません。
この研究は、その複雑さを整理し、「何が親を一番疲れさせているのか」を見えやすくしてくれます。
診断名の背後にある日常の困難に目を向けることの大切さを、あらためて教えてくれる研究だと言えるでしょう。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-026-07214-6)(画像:たーとるうぃず)
私はうちの子の笑顔をが見えれば、最高にうれしくなるので、幸いなことにこれまでストレスを感じたことはほとんどありませんでした。
(チャーリー)





























