この記事が含む Q&A
- 睡眠不足はADHDの若年成人の感情処理にどのような影響を与え、行動指標にはどんな変化が見られますか?
- 睡眠不足で怒った顔の押し忘れ・押し間違い・反応時間のばらつきが増え、補償が不十分になりやすいです。
- 初期の顔処理に関する脳波の違いは何を示していますか?
- ADHDなしはP1が小さくN170が強くなる傾向がある一方、ADHDありはP1が大きくなるがN170には大きな変化がみられません。
- この研究が示す、ADHD支援における重要な示唆は何ですか?
- 睡眠量と質の改善が感情理解や社会的機能の向上につながる可能性がある点です。
この研究は、イスラエルのマックス・スターン・イズレエル・バレー・カレッジ心理学部・精神生物学研究センターと、テルハイ・カレッジ心理学部の研究チームによって行われました。
若年成人のADHDのある人と、ADHDのない人を対象に、「睡眠不足」が感情のある顔をどのように処理するか、そのとき脳の中で何が起きているのかを、行動データと脳波の両方から詳しく調べています。
私たちは日常生活の中で、相手の表情から「怒っている」「安心している」「困っている」といった感情を読み取っています。
こうした能力は、人との関係を築くうえでとても重要です。
一方で、ADHDのある人は、注意を向け続けることや衝動を抑えることに困難を抱えやすく、さらに感情のある顔を読み取ることが苦手な場合があることも知られています。
加えて、ADHDのある人は睡眠の問題を抱えやすいことも、多くの研究で示されています。
そこで研究チームは、「睡眠を長時間とらない状態」が、ADHDのある人の感情処理をどれほど悪化させるのか、そしてその変化が脳の初期の情報処理段階にどう現れるのかを調べました。
参加したのは、ADHDのある若年成人男性19人と、ADHDのない若年成人男性14人です。
全員が、実験前に通常の睡眠をとった状態と、25時間起き続けた状態の両方で、同じ課題に取り組みました。
課題は「視覚オドボール課題」と呼ばれるもので、画面に次々と刺激が表示されます。
・怒った顔
・無表情の顔
・図形(丸や三角など)
・中央にバツ印のついた図形
このうち、特定の刺激(怒った顔、またはバツ印つき図形)が出たときだけ、できるだけ早くキーを押すよう求められます。その他の刺激には反応しません。
研究者たちは、この課題中の
・反応の速さ
・押し忘れ(反応すべきなのに反応しない)
・押し間違い(反応しなくてよいのに押してしまう)
・反応時間のばらつき
を記録しました。

さらに同時に、頭皮に多数の電極を装着し、脳波を測定しました。
脳波の中でも、刺激が出てから数百ミリ秒以内に現れる「事象関連電位(ERP)」という成分に注目しています。
この研究で特に注目したのは、次の4つの脳活動です。
P1(刺激後70~130ミリ秒)
ごく初期の視覚処理や、ネガティブな刺激への素早い反応と関係します。
N170(140~200ミリ秒)
顔であるかどうかを識別する過程と深く関係します。
P2(200~260ミリ秒)
注意を向ける初期段階と関係します。
P3(320~500ミリ秒)
注意資源の配分や、課題にとって重要な刺激の評価と関係します。
まず、十分に眠った状態では、ADHDのある人とない人の間に、大きな行動の差は見られませんでした。
どちらのグループも、課題をおおむね同程度にこなしていました。
しかし、25時間眠らない状態になると、状況が変わりました。
怒った顔に対する反応では、ADHDのある人だけで、
・押し忘れが増える
・押し間違いが増える
・反応時間のばらつきが大きくなる
という変化がはっきりと見られました。
ADHDのない人では、こうした変化はほとんど見られませんでした。
一方、図形刺激に対しては、両グループとも多少の影響は受けましたが、特に大きな悪化はADHDのある人に集中していました。

つまり、睡眠不足は誰にとっても負担になりますが、感情のある顔を処理する場面では、ADHDのある人がとくに強く影響を受けることが示されました。
では、このとき脳の中では何が起きていたのでしょうか。
P1という最初期の脳反応を見ると、怒った顔に対して、ADHDのない人では睡眠不足後にP1の大きさが小さくなりました。
これは、睡眠不足によって初期の視覚処理が弱まったことを示しています。
一方、ADHDのある人では、前頭部ではP1がむしろ大きくなり、後頭・頭頂部ではほとんど変化しませんでした。
研究者たちは、このパターンを「脳が何とか補おうとしているが、うまく機能していない可能性」と解釈しています。
次に、顔認識と関係するN170を見ると、ADHDのない人では睡眠不足後にN170が強くなりました。
これは、処理効率が落ちた分、脳が追加の資源を使って補償している状態と考えられます。
しかし、ADHDのある人ではN170にほとんど変化が見られませんでした。
つまり、補償的な働きが十分に起こらなかった可能性があります。
P2やP3については、睡眠不足やグループの違いによる大きな変化は見られませんでした。
今回の研究では、影響は主に「ごく初期の顔処理段階」に集中していたといえます。

これらの結果を総合すると、次のような構図が浮かび上がります。
ADHDのない人
→ 睡眠不足になると処理効率は落ちるが、脳が補償的に働き、行動レベルの成績は比較的保たれる。
ADHDのある人
→ 睡眠不足になると初期の顔処理が乱れ、補償もうまく働かず、行動レベルの成績も悪化する。
感情のある顔、とくに怒りの表情は、対人関係の中で重要な手がかりになります。
相手が怒っていることに気づきにくかったり、誤って解釈したりすると、トラブルや誤解につながりやすくなります。
ADHDのある人はもともと感情認識に難しさを抱えることがあり、そこに睡眠不足が重なることで、さらに困難が大きくなる可能性があります。

この研究は、「ADHDの支援を考えるとき、睡眠の問題を軽視してはいけない」という重要なメッセージを投げかけています。
注意や行動の問題だけを見るのではなく、
・寝つきにくい
・夜中に目が覚める
・睡眠時間が短い
といった点にも目を向けることで、感情理解や対人関係の困難がやわらぐ可能性があります。
研究者たちは、睡眠の量と質を改善することが、ADHDのある人の感情処理や社会的機能の向上につながるかもしれないと結論づけています。
この研究は、ADHDを「脳の特性」だけで捉えるのではなく、「睡眠という日常的な要因」との相互作用の中で理解する視点を示しています。
ADHDのある人がより楽に人と関わり、自分の力を発揮するために、睡眠への支援が大きな鍵になる。
その可能性をはっきりと示した研究だといえるでしょう。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-026-38376-z)(画像:たーとるうぃず)
「睡眠の量と質を改善することが、ADHDのある人の感情処理や社会的機能の向上につながるかもしれない」
より、睡眠への注意、支援が必要なのでしょう。
(チャーリー)





























