この記事が含む Q&A
- 不安は頭の中の心配だけでなく、体の感覚から始まることもあるのですか?
- はい。胸の圧迫感や胃の不快感、体と頭の結びつきの感覚などから始まり、後で「不安だった」と分かることがあります。
- 自閉症の大人の不安は環境や人間関係とどう関係しますか?
- 不安は音・光・匂い・人の多さなど感覚刺激や相手の表情・言葉の読み取りなど社会的要素と深く結びつき、理解される関係が支えになります。
- 研究は不安の対処で何を重視すべきと伝えていますか?
- 「どう感じているか」を起点に、環境・前提・感覚特性・人間関係を踏まえて支援を考えるべきだと示されています。
不安は、いつも「理由のある心配」として始まるわけではありません。
考えるより先に、体がこわばる。
音が刺さるように強くなる。
急に、逃げ場がなくなったような感覚に包まれる。
それでも、外から見れば、落ち着いているように見えることもあります。
会話もしているし、笑ってもいる。
だからこそ、「大丈夫そう」に見えてしまうことがあります。
今回紹介する研究は、そうした見えにくい不安の内側を、自閉症のある大人自身の言葉から丁寧に拾い上げたものです。
研究を行ったのは、イギリスのクイーンズ大学ベルファストの研究チームです。
この研究では、「どのくらい不安が強いか」ではなく、不安がどのように感じられ、どのように生活に入り込んでいるのかが問われました。
集められたのは、自閉症のある大人たちが語った、不安の体験です。
そこには、「こうすれば良くなる」という話よりも、「実際には、こう感じている」という、静かな事実が多く含まれていました。
まず明らかになったのは、不安が、頭の中の心配だけではないということです。

不安は、体の感覚として始まることがあります。
胸の圧迫感。
胃の不快感。
頭と体が切り離されたような感じ。
あとから「不安だった」と気づくこともあります。
最初にあるのは、理由のない緊張や違和感です。
そのため、自分でも説明しにくい。
説明できないまま、耐えていることもあります。
人とのやりとりは、不安が強くなりやすい場面のひとつでした。
相手の表情や声の調子、言葉の裏にある意味を読み取りながら、自分の言い方や態度を同時に調整する。
これは、無意識にはできません。
一つひとつ、意識して行う作業です。
「間違えたらどうなるのか分からない」
「正解が見えない」
その状態が続くと、安心する余地がなくなります。
さらに、不安は感覚とも深く結びついていました。
音、光、匂い、人の多さ。
これらが強い環境では、不安が急に大きくなることがあります。

そして、不安になることで、
感覚がさらに鋭くなることもありました。
刺激が強いから不安になる。
不安だから刺激が強くなる。
この循環の中で、身動きが取れなくなっていきます。
不安の影響は、その場だけでは終わりません。
人と会ったあと、数日間動けなくなるほど疲れてしまう人もいました。
研究では、これを「ソーシャル・ハングオーバー(社会的二日酔い)」と表現しています。
外から見れば、普通に過ごしていたように見えても、内側では、エネルギーを使い切っている。
その回復に、時間が必要になるのです。
不安が続くことで、外出や人付き合いを避けるようになる人もいました。
やりたい気持ちはあっても、体と心がついてこない。
「生きているというより、ただ存在しているだけ」そう感じるほど、世界が狭くなってしまった人もいます。
それでも、多くの人が、自分なりの方法で不安と向き合っていました。
会話の前に準備をする。
決まり文句を用意する。
安心できる人とだけ関わる。
これらは、不安を和らげる助けになります。
一方で、「普通に見えるようにする努力」が、別の疲れを生むこともありました。

とくに大きな支えになっていたのは、理解されていると感じられる関係でした。
説明しなくても伝わる。
無理に合わせなくても受け入れられる。
そうした関係の中では、不安が和らぎやすいことが語られています。
また、診断を受けたことで、自分の感じ方を言葉にできるようになり、必要な配慮を求めやすくなった人もいました。
この研究が一貫して示しているのは、不安は「気の持ちよう」ではない、ということです。
環境。
社会の前提。
感覚の特性。
人との関係。
それらが重なった結果として、不安は生まれています。
だからこそ、「どう変えるか」よりも、「どう感じているか」を起点に考えることが大切だと、研究チームは伝えています。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders DOI: 10.1007/s10803-025-07025-1)(画像:たーとるうぃず)
多くの不安をかかえていることを、あらためて、知ってほしいと思います。
(チャーリー)




























